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『百年の水流』開発前線編 第四部=ドラマの町バストス=外山 脩=(25)

主婦と子供の姿

 バストスに於ける養鶏の初期の光景を──人の話や資料類から──想像すると、主婦と子供の姿が浮かび上がって来る。庭先や鶏舎で鶏の世話をする主婦、それを手伝う子供たち…。この、まことにささやかな養鶏がブラジル最大の卵の生産地に変身して行くのだから、劇的である。
 しかも、バストスが抱えていたマイナス面が、プラスに転化した部分もある。つまり――すでに記したことであるが――ここは元々、地質が良くなかった。砂地で乾燥している土地が多かった。
 普通の農作物には不向きだった。が、土の乾燥は養鶏には好都合だった。湿地には病原菌が多く、鶏の足はこれに侵されやすい。
 それと、終戦直後の蚕糸業の崩壊で、農家の養蚕舎が空っぽになっていた。それを鶏舎に転用できた。
 さらに…これはマイナス面というわけではないが、移住地を創った時、入植者用の土地を100×2400㍍という東西に細長い形で、ロッテアメントしていた。だから日の光の当たり具合が良かった。これも養鶏向きだった。水も10㍍くらい掘ると出た。
 ということで、養鶏家が増え、サンパウロ市場と結びついて、成長を続けた。そして、かつて母親を手伝っていた子供たちが成人になる頃から、飛躍的な発展を遂げる。
 その話に入る前に、1950年代半ば以降、バストスで起きた一、二の出来事に触れておく。

一、二の出来事

 事業は絶頂期に在る時が危ない…と言われるが、その絶頂期にあったバンデイランテ産組バストス出張所の凋落が始まった。それを惹き起こしたのは、勢威を象徴した種鶏場である。そこでは、日本から来た技術者たちが、雛を生産、バンデイランテと名づけて販売していた。ところが、その死亡率が驚くほど高かったのである。
 そこへ米国からハイラインという雛が入ってきた。こちらの死亡率は、逆に極めて低かった。
 養鶏家たちは何処でも、購入する雛をハイラインに変えた。これで、バストス出張所だけでなく、バンデイランテ産組まで大打撃を受けた。同産組は、ほかに乱脈経営があって、1960年代半ば、経営破綻が表面化、瓦解した。バストス出張所も消えた。
 それと入れ替わる様に、この町で事業を伸ばしていたのが、ファミリア信太である。短期間に急に大きくなった。しかも中心人物は女性だった。同家の主婦房(ふさ)である。夫兵冶との間に12人の子供が居た。このオバサンが、子供たちを使って幾つもの事業を起こし「1970年代は、飛ぶ鳥を落とす勢いだった」と今日まで語り継がれている。
 信太家は1934年、北海道から移住してきた。1952年、バストス入りし、カミニョン2台を使って運送業を始めた。卵の輸送を請け負ったのである。その内、廃鶏に目をつけた。養鶏場では産卵率低下その他の理由で、処分する鶏が常に出る。その数がバストス全体では大量になった。
 土地の人々の昔話によれば「それを安く引き取って、カミニョンに積み、北の方へ持って行き、食料として売って儲けた」という。
 次いでフリゴリフィコ、種鶏場、養鶏場、アンダーソン・クレイトンの代理店、映画館…と事業を広めた。が、房女史が逝くと、全部駄目になった。
 別説もある。こうである。
 「信太の事業の終わりと房さんの死が、ほぼ同時期だったので、皆そう言うが、実際はフリゴリフィコが上手く行かなくなったのが原因。鶏肉にパーツ化の時代が来た時、丸ごと売っていた。
 そのフリゴリフィコに他の部門がブラ下がっていたため、信太は終わった。1980年代の前半のことだ」
 噂話というものは、真実に近づいて行くと、大抵、面白味が減って行くものである。
 なお、ファミリア信太の事業は、完全に無くなったというわけではなく、房の孫に当たる人が、大型の養鶏場を経営しているという。(つづく)

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