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世界記録持つ“ホワイトジャック”=佐野医師、USPで専門家に講演=1ミリに8針縫う『無血手術』

左から来社した佐野公俊(ひろとし)先生と板垣勝秀さん

 「私の手術は血が出ないので『死体の手術をしているようだ』と言われる」――脳神経外科医の権威にして“ホワイトジャック”の異名を持つ佐野公俊(ひろとし)医師は、自らの手術についてそう説明した。医療機器の輸入・販売を行うパナメディカルシステム(板垣勝秀社長)とサンパウロ総合大学(USP)は今月12、13両日に「第一回ブラジル―日本脳血管シンポジューム」を同大学医学部講堂で開催。藤田保健衛生大学客員教授の佐野医師は、ブラジル人の脳神経外科医師らに講義を行った。講演前に来社した佐野医師に取材した。
 佐野医師は、今回で3回目の来伯。世界脳神経外科連盟の血管障害部門委員長を務める、その道の権威だ。板垣社長は「佐野先生の講演は、2日前の時点で120名の申込みが寄せられた」と語り、ブラジル人からの関心の高さを伺わせる。
 佐野先生が専門とするのは脳動脈瘤の手術。これは脳の血管にできる小さな瘤だが、小さく薄いため、いつ破裂するか分からない爆弾を抱えているような状態だ。
 今年74歳を迎える佐野医師は、「今まで脳動脈瘤の手術は4400例行った」という。「年間100例ほどやって40年経った計算。手術の補助も合わせたら1万例は超える」とまるで簡単な事のように述べる。
 だが、実際は直径1ミリの場所を0・1~2ミリおき、約8針も縫うという超高度な手術だ。肉眼では見えないため、顕微鏡を使って手術する。「0・1ミリで縫わないと血管を切る。一回の血がさらに血を呼ぶ。だから全く無血の方が良い。科学の進歩に合わせて技術はまだまだ進化できる」という。
 70年代には顕微鏡を使わず手術をしていたが、佐野先生は医学部を卒業後にいち早く顕微鏡を購入した。手先の器用さもあり、高度な手術をこなす佐野先生は徐々に認められ、2000年、01年と連続してクリッピング手術の実績がギネスブックに登録されると一躍有名になった。それまでの1千例の世界記録を倍以上超え、2100例に達していた。
 「今はすぐにカテーテルを入れようとするが、くも膜下出血の場合は再発が多いので、一度カテーテルを入れた人の手術は難しくなる。だから世界中の国で技術の啓蒙活動をしている」と語った。


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 脳神経外科医の佐野公俊医師は、「日本の脳神経外科医レベルは世界一」と語る。「脳動脈瘤の手術は見えず、裸の王様を相手にしている気持ちになる。それ程細かい作業のため、器用さも求められる」。だから一般的に器用と言われる日本人に向いているのか。ちなみに佐野先生は、その技術によって手塚治虫の有名な漫画『ブラック・ジャック』をもじった“ホワイトジャック”の異名が付けられた。今回の啓蒙活動で、ブラジル版“ホワイトジャック”の誕生も期待したいところ!?

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