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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(177)

 谷口先生は他の宗教とちがって、「生長の家」が宗教でないということを主張された。したがって、ほかの宗教を信じる者を批判することはなかった。「『生長の家』は歴代の宗教を批判することはない。それどころか、各家庭で継続してきた宗教に従って、先祖をともらうべきだ」と著書に書いている。

 「全ての宗教は世に光明をもたらすべく生まれた。いろいろな電球があるように、世を照らすために、いろいろな宗教がある。これら宗教は人間の人生航路を照らす灯台のようなものだ。自分たちの教理だけが正しいと、宗教団体がお互いに争う必要がどこにあるというのだ」

 正輝はその言葉を新しい教理を受け入れながら、沖縄からの習慣をつづけてもいいのだと受けとめた。そして、新しいものの見方、考え方を悟る機会を与えてくれた教理を喜んで受け入れた。
 イデオロギー的にはこの新教宗教には正輝が幼いころ受け、培ってきた概念と多くの共通点があった。天皇や先祖を崇拝することがそれであった。
 「永遠の命を信じ、毎朝、神棚にむかって歴代天皇を崇拝し、また、先祖に祈りを捧げ、彼らの庇護に感謝する。喜びをもって若者のように日々を過ごせ」
 谷口雅春先生はそう説いている。

 「永遠の命は『生長の家』の教理の根本だった。それが理解できなかったら、歴代天皇を崇拝する意味が分からない。それはけっして形式的なものではない。それを批判する人間がいるかもしれない。だが、日本人は日本の長い歴史のなかに、今という時を生きている。たしかに歴史には波があり、良い時期、悪い時期がくり返されるが一度たりとも国の存在が危うくなったことはない。不屈な天皇の存在により、悪条件を超越し、今日まで進歩し続けた。天皇はだるまの基底のように、世の平衡を保たせる力のあるお方だ。歴代天皇から受けた恩恵を決して忘れることがあってはならない。それに答えるためには道徳的にも宗教的にも正しく生活することだ。そのために、歴代天皇を崇拝し、おのれの真の感情を示すべきだ」

 歴代天皇を崇拝する以外に、「生長の家」創立者の教義に正輝が賛同することがあった。
 そのなかの一つは賛否両道に分かれた天皇の神聖についてだ。

 「神話によると、日本は天照大御神の創造で生まれ、その後、理想的な天国を地上に造ろうと下界され、日本をお造りになった。『その国は永遠に続き、自分の息子、孫そしてその子孫により統制される』神話は作者によって書かれたのではなく、古代の民族の考えから生まれた。そして、考えを一つにし信仰集団を築き上げた。
 天皇を中心とした民衆の国で、したがって、日本はまさに民主国家といえる。民衆の考えは国家運営に反映し、日本は民衆の意見にそって進展していった。家を建てるのに少しずつ材料を集めるように、国を造るために少しずつ人材を集めていった。よって君主制日本に対する人々の考えはすでにずっと以前から備わっていたのだ。そして、世が進むにつれて、それがますます認識されるようになった。神武天皇の大和の国朝廷創設は日本国民の考えが形としてあらわれた最初の出来事といえる」

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