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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(178)

 このような話のもっていきようは正輝の心を捉えた。はじめに、とうてい信じられようもない神話を取りあげた。だが、次に「生長の家」の創立者はその神話に基づき、日本の国がどのように誕生し、日本人の思考がどのように形成されていったかを説いた。正輝が一番読みたかったことなのだ。そのうえ、その書は「八紘一宇」つまり、天下、全世界を一つに家にするという思想を理解するのに役立った。
 臣道聯盟の取り調べを行った署長の報告書では日本帝国主義の基盤となったと書かれていたが、谷口はまったくそれを否定している。1930年はじめから、戦争終結まで日本をファシズムと軍事体制におちいらせた指導者が打ち立てたというと「八紘一宇」は、実は神武天皇の政治体制だったのだ。

 「神武天皇が実在したか、しなかったは問題ではない。たしかなのは古代の日本民族の間にうまれた神話ということは間違いない。古代の民衆にあった『新しい国を造る』という考えが、神武天皇という一人の天皇を誕生させたのだ。その天皇は『民衆一丸となって、一家をなそう』と宣言し、国を造った。それが『八紘一宇』という言葉で表わされた。ところが巣鴨裁判のとき、裁判側は他国を脅かす軍国主義と解釈したのだ。『天下、世界』という言葉のなかに外国という観念はまったくない。人類が一丸となって家を作ろうと唱えているのだ。つまり、国が設立されて以来、日本国民は世界の人々を兄弟とみなし、また、神武天皇を民主主義のリーダーとみなしていたのだ」

 「生長の家」の書物は正輝を満足させた。「八紘一宇」が軍国主義の基盤ではないと納得し、日本人は世界の人々と兄弟であり、日本帝国の設立者が民主主義のリーダーだという説明も納得できた。
 そのうえ、「生長の家」の教義のなかに反共産主義が反映していて、強い反共産主義の正輝を納得させた。谷口先生は著書「生命の實相」に次のように書いている。

 「『生長の家』は無限の知力を否定する経済理論に賛同できない。また、貧困は他の者の搾取が原因だとする考えにも反対だ。なすべきことは貧困人たる原因を突き止めることにある。原因もわからず、ただ、物を与えても何の意味もない。裕福な者から金をかき集め、貧乏人にばら撒いたところで、彼らの意志を変えなければ、与えられた金がなくなれば、もとの貧乏人にもどる。したがって、これは物質的問題ではなく、精神的問題なのだ」

 もし、警察当局だけによるものなら、正輝をはじめ、400人に及ぶ日本人、日系人が関わる臣道聯盟の訴訟はごく短時間にすみ、判決がいいわたされていたはずだ。その証拠に1946年4月2日秘密組織の調査を任されたDOPSのカルドーゾ・メーロ署長は3ヵ月内に1000人近くの人を尋問し、捜査を行い、組織の思想体系を分析した書類を作成し、6月28日には470人の中の、80人を国外追放、390人を起訴処分した。
 すぐに、第5警察署のDOPSヴェナンシオ・アイレス局次長に書類を渡した。同氏は翌29日、その報告書を保安局に送った。国外追放の決定権をもつ法務省と内務省に回すためだヴェナンシオ局次長の意見に従い、7月3日、ペドロ・A・デ・ソブリーニョ保安局長はカルロス・コインブラ・ルス法務大臣に送った。

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