ホーム | Free | サントス強制退去の証言=その日何が起こったのか=(4)=「日本人はスパイ、出ていけ」

サントス強制退去の証言=その日何が起こったのか=(4)=「日本人はスパイ、出ていけ」

比嘉ゆうせいさん

 母親のトシ子さんから退去命令が下された話を聞いたゆうせいさんは、すぐに学校へ行って先生にその事を伝えた。先生は「私の家に来なさい」と申し出てくれたが、家族と共にいることを選び、先生に別れを告げた。
 当時、父親のユウキさんはアルゼンチンへ出稼ぎに行ったきり行方不明になっており、母親と5人兄弟と共に暮らしていたという。家に戻ったゆうせいさんは、家族と共に、近くに住む叔父の家に向かった。
 叔父の家に向かう道は、何も変わった様子は無いように見えた。その頃、ドイツ軍が攻めてくるという噂があり、街灯は消して、町中を暗くしていた。電車の灯りさえも消されており、「夜は外出禁止で遊べなくて怖かった」とゆうせいさんは記憶を辿る。
 差別も日常的にあった。日本人が3人以上集まること、日本語で話すことは禁じられていた。あちこちに軍隊がいたので、万が一話しているのが分かったら連行されたという。
 ゆうせいさんも、一度電車の中でウチナーグチ(沖縄語)を話した時は、母親から喋らないように注意された。
 また、当時はサントス海岸近くで、アメリカ軍の戦艦が沈められる事件があり、日本人がやったと疑われていた。ブラジル人から「日本人はサントスから出ていけ」と言われたこともあった。
 「日本人はとても嫌われていた。キンタコルナ(第五列、スパイなどの存在)という劣等国民の扱いを受けていました」。その屈辱は、今でも覚えている。
 夕方、叔父の家に到着し、叔父と母親は「サンパウロは寒いから」と町に洋服を買いに行った。それに幾つかの毛布などを持ち、準備を終えて夜に駅まで向かった。
 駅は人がいっぱいで、「ほぼ9割近くが日本人だった」という。イタリア移民やドイツ移民もたくさんおり、皆が混乱している様子で騒がしかった。中には家族と離れ離れになり、大声で探す人もいた。
 汽車に乗り込むと、その中で1日中過ごした。その間食べ物もなく、ひもじい思いをした。やっとサンパウロの収容所に着くと、一切れの硬いパンとフェイジョンを口にすることが出来た。
 その時、ようやくゆうせいさんは、この状況について考えることができた。何が起こったのか、何故サントスを出なければ行けなかったのか、家はどうなるのか――。周りの泣いている人や、不安そうな顔をしている人を見て、幼心に疑問が湧いてきた。
 「あの出来事も過ぎ去って忘れていた。誰にも話さなかった」。だが、こうして記憶を呼び覚ますと、理不尽な扱いを受けたという気持ちが残る。
 「差別は間違っている。両親が日本人だとしても、自分はここで生まれたブラジル人。この国の人間だ。このような事件は、二度と繰り返されてはならない」。(つづく、有馬亜季子記者)


□関連コラム□大耳小耳

 サントス強制退去事件の名簿を発見した松林要樹さんが制作した、サントス強制退去事件に関するドキュメンタリー番組の放送が決定した。題名は『語られなかった強制退去事件』で、NHKのBS1で12月19日(木)連午後23時~23時50分(日本時間)に放送される。残念ながらブラジルでも見られる「NHKワールドプレミアム」では、いまのところ放送されないよう。何らかの観る手段がある人は、本紙で連載している「サントス強制退去の証言」と合わせてぜひ観てほしい。

image_print

こちらの記事もどうぞ

  • 《ブラジル》コパ・アメリカ開催地に急きょ決定=コロンビア、アルゼンチンが中止で2021年6月1日 《ブラジル》コパ・アメリカ開催地に急きょ決定=コロンビア、アルゼンチンが中止で  南米サッカー連盟(CONMEBOL)が5月30日、6月に開催予定のコパ・アメリカの開催予定地だったアルゼンチンでの開催をコロナ禍を理由にキャンセル。翌日には一転し、ブラジルでの開催を発表した。5月31日付現地サイトが報じている。  CONMEBOLは5月30日の夜1 […]
  • 東西南北2021年5月28日 東西南北  連邦政府文化局のマリオ・フリアス文化局長が、文化局内を銃を持って歩いていると報じられている。その銃は本人名義で登録した9ミリ口径のもので、それをベルトの脇に見えるようにして歩いているという。さらに、そういう状況の中で同氏が部下や下請け業者の人に向かって叫ぶ姿も見られており、文 […]
  • 東西南北2021年5月26日 東西南北  ボルソナロ大統領が23日にリオ市で行った1万人規模のマスクなしでのバイク行進は、各方面から批判を浴びている。そのすぐ前の15日にブラジリアで行われた大統領支持の集会では、参加者の一人の退職公務員女性が、すぐ後の20日にマット・グロッソ州でコロナ感染が原因で死亡していることが分 […]
  • 東西南北2021年5月13日 東西南北  11日に保健相が、出場選手をはじめとした東京五輪関係者へのコロナワクチンの接種計画を発表した。リオ五輪の際のブラジル国内でもそういう傾向が見られたが、南米圏そのものの五輪熱がもともと高くない。そのため、今回の五輪もブラジル国内の報道は多くなく、「実感がわかない」というのが実情 […]
  • 東西南北2021年5月7日 東西南北  人気コメディアン、パウロ・グスターヴォのコロナ死は国民に強いショックを与えており、いまだに話題が絶えない。アゴラ紙などが報じたところによると、パウロは生前コロナ対策のために、判明しているだけで130万レアルの寄付を行っていたという。たとえば、昨年4月にバイア州の保健機関への5 […]