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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(204)

 そのころ、稲嶺盛一の次男ジョアン・セイミツがセナドール・フレイタス街881番で洗濯店をやっていた。「サンジョゼー洗濯店」という名だが、その店を譲りたがっていた。それで、値段も手頃だということを父に報告した。もしそうなれば、店から1・5キロほどのピレス区のドン・ペドロ・プリメイロ街1321番に、家族が住める広くて新しいレンガ造りの家がある。家主はシンシナット・レイチェルトという町に多くの土地を所有している男で、家賃もそう高くない。松吉かあるいはには市内に住みついた知り合いがいれば、保証人になってもらい、保証金もいらない。
 角の家ではないが、アレンカストロ街にむけて、直接中庭に通じる入り口がある。家屋が斜面に建てられているので中庭は母屋より一段下になり、そこには仕事場があり、セメントの階段で上につながっている。角のとなりの家の前面は二枚開きのドアがある大広間で、そこは商店におあつらえ向きの場所だ。バールに適しているかもしれない。もっとも、正輝はそうした商売に手を出すなど、もうとう考えていなかった。
 ミーチとツーコにはセナド-ル・ケイロス街に小学校(プロフッセソール・ジョゼー・アウグスト・デ・アゼヴェード・アウトゥネス校)が見つかっていた。もっとも、転校は学期の初めしか認められていなかった。ヨシコはもうすぐ小学校に入る年齢だ。もし、家族が引っ越してくれば、この小学校に入学できる。ジュンジはまだその年に達しておらず、セーキは勉強をやめ、ネナは三年生で退学していた。マサユキとアキミツにはアメリコ・ブラジリエンセ州立高校への転校を考えていた。空席があれば、転校前の成績を提出するだけで、もちろん、学校側の許可があってのことだが、受け入れてもらえる。
 正輝は躊躇したが、重要な決意には危険がともなうものなのだ、と覚悟してもいた。サントアンドレに転居し、洗濯業で家族を養っていこうと決心し、息子を呼び戻した。
 アララクァーラで解決しておかなければならないことがある。マッシャードス区で数年前、所有者マヌエル・ゴーメス・ダ・シルバ(マネー・プラッタ)と交わした借地農の契約を解除しなければならない。それから引越し準備、とくにトラックの準備などだ。
 そこで、引っ越す前にマサユキはもう一度サントアンドレに足を運んだ。今回は洗濯屋について稲嶺セイミツとの契約をかわし、ドン・ペドロ・プリメイロ 大通りの家の家賃、自分とアキミツのアメリコ・ブラジリエンセ州立高校への転校手続き、今年はできないが来年の新学期のミーチとツーコの小学校へ入学申請などのことを解決しなくてはならない。これにはサントアンドレにいっしょについてきてくれた父の従妹のヨシアキが手伝ったくれた。彼もこちらに引っ越してきたら、弟のヨシオが高校に転入できるか調べておかなければならなかったのだ。受け付けてくれたジョセー・アマラル・ヴァギニール先生は、「アララクァーラ州立高校からの転校だったら、問題はありません」
 と、こころよく転校を認めてくれた。

 こうしたいきさつがあり、また、アララクァーラ市役所の朝市撤回の手続きが遅れたため、一家のサントアンドレへの移転は1951年9月になってしまった。

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