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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(242)

 ブラジルの国を守るりっぱな軍人に成長していたのだ。軍服に身をかためた息子の姿は、サントアンドレの多くの若者が義務兵役で入隊する予備役軍人285射撃部隊の制服姿の者と、くらべものにならないと内心思った。息子はその辺の同年輩の青年たちよりずっと上の立場にいる。
 「彼らはおまえに敬礼しなくてはならないのか?」
 「そうです」
 という返事がきて大いに満足した。
 何週間かたつうちに、正輝は息子が学習する科目を詳しく知ることになった。ニーチャンは砲兵部を選んでいた。武器の基本的知識は戦略法、体力育成、武器の使用法、射撃練習などが含まれる。正輝は息子が1週間に習ったことを夢中になって聞いた。彼に武器を使って仲間とするシュミレーションの攻撃に参加してみたいと打ち明けたくらいだ。
 1918年、移民として渡伯するために進学をあきらめ、その後、軍隊に関する本を読みあさった正輝にとって、まるで、自分が学校に通っている気分になったのだ。何度も説明してもらい、理論の意見を息子と交わしあった。そうすることで、どんなに若返ったことだろう。
 同時に、他の子どもたちの勉学にも関心をもった。もっともアキミツは中学3年生になったとき学校をやめたから例外で、ミーチは州立よりずっと易しいと正輝がいう私立でも、どうにかやっている状態だった。ツーコは州立高校アメリコ・ブラジリエンセの入学試験に通れず、公立学校の隣の、サントアンドレという私立中学で勉学していた。ヨシコとジュンジはまだ、小学生だった。
 家で勉強する習慣をつけるという目的で、1週間に何回か下の子どもをジャカランダのテーブルの前に座らせ、彼らの習っている科目について話を聞いた。とくに世界地政学に興味があった。ポルトガル語もふくめて講読している本のおかげで、その分野について詳しかったからだ。とくに下の子どもたちには本を読ませ、きちんと発音するよう言い聞かせた。
 みんなポルトガル語は上手だった。だが、一度だけ、うまくいかないことがあった。ある日、打撲用のポマードを買いに行かせたときのことだ。房子はイピランギーニァ広場にあるいちばん近い薬屋にジュンジを買いに行かせた。
「Bai no farumaashiya kompuraa ikichooru(くすり屋にいって、イキチョールを買ってきなさい)」と母が言った。

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