ホーム | 連載 | 2020年 | 新日系コミュニティ構築の鍵を歴史に探る=傑物・下元健吉=その志、気骨、創造心、度胸、闘志=ジャーナリスト 外山脩 | 新日系コミュニティ構築の“鍵”を歴史の中に探る=傑物・下元健吉(29)=その志、気骨、創造心、度胸、闘志…=外山 脩

新日系コミュニティ構築の“鍵”を歴史の中に探る=傑物・下元健吉(29)=その志、気骨、創造心、度胸、闘志…=外山 脩

自宅でくつろぐ下元、二カ月後に急逝

自宅でくつろぐ下元、二カ月後に急逝

急逝!

 繰り返しになるが、下元健吉は絶頂期の…その波頭の上に立っていた。
 人の運命とは不思議なもので、こういう時が危ない。
 農業展覧会から5カ月後の9月、その25日の昼食時刻、組合本部事務所三階、理事長室の隣りの応接室で発作を起こした。
 実は、これ以前から、健康の衰えや疲労はハッキリしていた。心臓に疾患があって高血圧症に侵され、自宅の湯殿で倒れたのを始め、軽いものを含めると10回くらい発作を起こしていたのである。周囲の忠告で休養したが、十分ではなかった。重要な仕事が山積していたためである。
 応接室での発作時の様子は、現場に居合わせた幾人かの記録が残っている。それによると――。
 一幹部職員は、その時、本部事務所の外で同僚と雑談をしていた。突然扉が開いて飛び出してきたある理事から「オイ、下元さんが倒れたゾ」と知らされた。
 驚いて3階まで上がり、理事長室に入ると、いやにシンと静まりかえっており、隣の応接室へ通じる扉が半開きで、そこに居た外来者たちが、部屋の中の一点を見つめていた。
 視線の先では、下元がソファーに崩れるように腰を下ろしており、苦悶の表情であった。
 また同日、取材に訪れていた邦字新聞の一記者は、サントスの漁師たちが下元を訪問していることを知り、その結果を聞こうとして待機していた。
 ところが、周囲の空気がおかしくなった。漁師たちが階段を下りてきた。その表情や態度が尋常ではなかった。
 理事や幹部職員が次々と詰めかけた。記者は3階に上がり応接室に入った。椅子に横たわった下元を見た。顔面蒼白で額に汗を流し、苦しそうだった。
 右の二人以外の記録も含めて状況をまとめると、この直前、下元は漁師たちと、日本から進出してきた大洋漁業との悶着について話していた。
 大洋の進出には、政府の許可取得に関して、コチアが協力していた。が、地元の漁師による反対運動が起きた。大洋の様な大企業に進出されては、弱小な地元漁師は潰れてしまうという理由による。
 現に、大洋が操業を始めると、サンパウロ市場で魚価の暴落が起きた。
 ために、下元が調停に入ったが、交渉は難航、経緯は曲折を経ていた。
 この日も、その件で相談中、下元が発作を起こしたのである。
 以後、下元は一時間余、蒼白の表情で全身から汗を噴き出し、嘔吐し、頭痛・のどの渇き・寒さを訴えながら「大洋はけしからん」「大洋は組合に入らにゃならん」「大熊を呼べ、話がある」と数語を発した。
 この場合の組合というのは地元漁師たちが創ったそれで、大熊というのは、この悶着の関係者であろう。
 やがて下元は「今度はヤラれた」「今度はダメだ」「皆、元気で組合をもり立ててくれ」と三度繰り返し、意識を失い、息を止めた。
 59歳であった。経営者としては、当時でも若すぎる最期だった。
 この頃、彼は死を意識していた――とする説もある。資料類をザッと散見しただけでも、次の様な記述が見つかった。
「死に物狂いで働いていた」
「何かに憑かれた様だった」(幹部職員)
「死を覚悟で働いていた」(元理事)
「死に物狂いで組合を守った」(元古参職員)
    (つづく)

image_print

こちらの記事もどうぞ

  • 《ブラジル》サッカー全国選手権 フラメンゴが2年連続V=判定に泣いた2位インテル2021年2月27日 《ブラジル》サッカー全国選手権 フラメンゴが2年連続V=判定に泣いた2位インテル  25日、サッカーの全国選手権の最終節が行われ、フラメンゴが2年連続7回目の優勝を飾った。26日付現地紙が報じている。  この日は同選手権最終節のため、例年通り、全10試合が同時刻に一斉スタート。21時30分にキックオフした。  優勝がかかっていた首位フラメンゴはこ […]
  • 《ブラジル》大サンパウロ市都市圏で再び外出規制強化=計6地区でレベル降格2021年2月27日 《ブラジル》大サンパウロ市都市圏で再び外出規制強化=計6地区でレベル降格  26日、サンパウロ州政府のコロナ対策である「プラノSP」で外出規制の見直しが行われ、大サンパウロ市圏を含む4地区がオレンジ・レベル(下から2番目)に降格した。26日付現地サイトが報じている。  プラノSPは24日にも、26日から3月14日まで、州内全域で23時から翌朝5時の […]
  • 《記者コラム》ブラジル・サッカー「12強時代」の終わり2021年2月26日 《記者コラム》ブラジル・サッカー「12強時代」の終わり 「ついに“12強時代”は終わってしまうんだな」。今季のサッカー全国選手権を終えるにあたり、コラム子はそう思わずにはいられない。  来季の全国選手権2部にはすでにクルゼイロがいて、現在1部最下位のボタフォゴが降格して名前を連ねることが確実視されており、そこにヴァスコ・ダ […]
  • 《ブラジル》大統領令でPPIの対象認定=民営化計画には公社も含める2021年2月24日 《ブラジル》大統領令でPPIの対象認定=民営化計画には公社も含める  ボルソナロ大統領が投資パートナーシップ・プログラム(PPI、官民合同投資計画)の対象となる道路や港、空港のリスト入りの大統領令を出し、開発を認定したと23日付官報に掲載した。  この大統領令では、港湾や空港部門に関連する連邦公社を国家民営化計画(PND)に含める事も […]
  • 東西南北2021年2月23日 東西南北  21日のサッカー全国選手権、今季の天王山となったフラメンゴ対インテルナシオナル戦はフラメンゴが2―1で逆転勝利。インテルの優勝を阻止しただけでなく、順位も逆転して首位に立った。残るは25日に行われる最終戦のみ。この試合でフラメンゴが対戦相手のサンパウロに勝てば優勝する。サンパ […]