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中島宏著『クリスト・レイ』第6話

 日本語学校と称する建物は、その広場にあった。木造立ての簡素なもので、やや大きな建物ではあったが、その質はこの辺りの農場の労働者たちが住む家と同じようなものだった。
 ただ、マルコスたちの目を引いたのは、その建物の背後にあった、それよりもかなり大きな、別の建造物であった。集会所のような感じのものであったが、近づいて、よく見るとそれは、まぎれもなく一つの教会であった。
 木造立ての、教会というにはそれほど大きくはない建物だが、こんな所に教会があるということが彼らにとっては不思議であった。その現れ方が、かなりの意外性を伴ったために、マルコスたちは一瞬面食らってしまい、呆然という感じで、そこにしばらく立ち止まったままになった。
 何なんだこれは。
 初めて目にするその建造物は、彼らが今まで一度も見たことのないものだった。
 よく見ると、その教会の入り口の屋根の部分には十字架がかかげられ、明らかにそれは仏教ではなくキリスト教の教会だということは分かったが、しかし、このような形の、しかも木材で造られた教会など、かつて見たことはなかった。
 そこには豪華さはまったくなく、むしろその逆の、どことなくみすぼらしささえ感じられる、質素な雰囲気を持つものであった。キリスト教会には違いないが、しかし、その佇まいは、マルコスにとって異国のもの、あるいは異次元のものを見る感じであり、何よりもそこには、珍しさがあった。
 一体、これが教会と呼べるものなのかどうか。それすら判然としない感じのもので、彼にとってこれは大げさでなく、未知の存在との遭遇といったようなものであった。
 このとき不意に、教会から賛美歌が流れて来た。
 それは唐突のようであったが、静かに、ゆっくりと辺りを包み込んでいくような、柔らかな空気を伴いつつ、マルコスたちの耳に響いていった。それは彼にとっても聞き覚えのあるメロディーだった。
 マルコスは、その賛美歌を聞きつつ、普段あまり味わうことのない種類の感動を覚えた。この一風変わった珍しい教会の佇まいと、聞き慣れた賛美歌との組み合わせが、意外性を通り越して、合致するようにしてハーモニーを作り出していることに対するそれは、驚きと感動であったのかもしれない。
 何だかそれは、不思議な雰囲気を持つものであり、ちょうど、別世界に引き込まれたような感覚を伴った一種、浮世離れしたものでもあった。こんな近い場所に、このような未知ともいえる世界が存在していたことに、マルコスは意外な感に打たれ、強い印象を受けた。
 それにしても、なぜ、こんな人目を避けたような場所に、ひっそりとした感じで教会が建てられているのか。常識からいえば教会というものは、いずれの町でもほとんどがその中心部に建てられ、誰もが一目ですぐ分かるように、目立つようにして存在するのが普通である。
 ところが、ここの教会は、その常識を破って、まったく目立たない、誰も知らない場所に孤立した感じで建立されている。一体これは、どういう性質の教会なのか。マルコスは、クリスチャンではあっても、キリスト教や宗教全体に関してはそれほど詳しくはなく、その辺りになると皆目、見当もつかない。

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