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中島宏著『クリスト・レイ』第14話

 今までの木造の建物から、本格的なレンガ造りのものに改造するという話が持ち上がり、それが実際に、一九三五年の後半から実施に移されていったのである。
話によるとその教会は、同じカトリックのものながら、日本から設計図を取り寄せ、それを基にして建築をしていくというようなことであった。あの二人のドイツ人の神父がこの地に来たのには、この教会を建てるためという目的も、そこには含まれていたようである。もっとも、マルコスにとって、それらのことは直接関係のないことであり、特にそれによって関心が深まるというようなことでもなかった。  マルコスの日本語の勉強は、始めてからすでに二年あまりが過ぎ、一九三六年になっている。もうそんなになるのかと思いつつも、彼はまだまだ勉強を続けたいと思っている。教材として使われている「小学国語読本」は、すでに巻十二まで進み、残すところあと僅かしかない。読み書きの基礎的なところはほとんど習得し、会話もほとんど問題なくできるような水準にまで達している。無論、話題が難しいものになると、まだ完全ではないが、それでもこの二年あまりの上達ぶりは見事なもので、正直なところ、この期間でここまで達するとは誰も考えていなかった。
それは、教えているアヤ自身もはっきり認めているほどであった。
「マルコスはね、他の人たちと比べて集中力が普通じゃないわね。
とにかく熱心だし、どんな疑問でもすぐ質問して理解しようとするから、それだけ日本語の上達も早いということでしょうね。それと、マルコスは、こういう語学の素質があるみたいね。見てても、そんなに苦労することなく単語を覚えるし、文章の書き方も、話し方も、ちょっとびっくりするぐらい、飲込みが早いわ。これって、やはり先天的なものがあるのかしら。数は少ないけど、世の中にはそういう人もいるということね。
私も、ポルトガル語をマルコスの日本語に負けないように勉強してるつもりだけど、どうも、私にとっては形勢不利というところね。その早さには付いていけないわ」
アヤは、マルコスのことを、そんなふうに評価してくれるが、マルコスにしてみれば、それほどのことではないと思ってしまう。自分の能力に対する自惚れというのではなく、現実に彼の上達ぶりが、アヤが言うほどには大したものとは思えないのである。あるいは、そこには彼に、自覚症状に欠ける面があったのかもしれない。
もっとも、同じクラスの他の生徒たちと比べると、結構大きな差ができて来ているから、やはりそれだけの違いがあるということなのであろう。が、彼にしてみれば、そういう比較などはあまり意味がなく、とにかくもっと先に進みたいという願望が強かった。
彼の目標としているのは、アヤの日本語であり、さらにその先を言えば、あのドイツ人の神父たちの日本語であった。その水準まで達して初めて、日本語ができると言えるのではないか。マルコスは、そういう発想をする人間だった。
自分の実力あるいは能力を無視するということではないが、今、すぐではないにしても、いずれ将来はその水準にまで達してみせるという気概のようなものを持っている。まあ、その辺りが若さの持つ特権ともいえるのかもしれないが、他の人間ができるのだから、自分にもできるはずだという、天真爛漫のような思考がそこにはあった。

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