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中島宏著『クリスト・レイ』第36話

「あら、そういうふうに言ってもらうと、私も嬉しくなるわ。じゃあね、マルコスにもできるだけ分かるように説明していくわね。でも、分からないところがあったら遠慮しないで質問してもらって結構よ。私だって歴史の先生というわけじゃありませんからね。まあ、適当に私のやり方で説明していくことにするわ。
 さっきの織田信長の話なんだけど、戦国時代を終わらせて、日本の国をほとんど統一したと思ったその矢先に、彼は暗殺されてしまうの。いえ、敵じゃなくて側近の者に殺されたの。織田信長という人間は、あの時代の人々にはなかなか理解できないほど革新的な考え方を持っていたから、一部にはそれに付いていけなかった者も出てきたわけね。
 で、その後、彼の臣下でもあった豊臣秀吉という人間が跡を継いで、日本を統一した政府を作っていくのだけど、でも、結局、本当に長期的に安定した政府を実現させたのは、その次の徳川家康が殿様になってからね。実は、その辺りから、日本のキリスト教信者たちの苦悩が始まっていくの。キリスト教への弾圧が始まったのは、豊臣秀吉の時代からだけど、しかし、その動きが本格的になったのは、この徳川の政府になってからなの。
 マルコスにとっては、知らない名前ばかりが出てくるから、ちょっと分かりにくいでしょうけど、とにかくこの時期は日本という国が一つにまとまるようにして大きな変化を遂げた時代でもあったわけね。その中で、織田信長は革新的で、外に向かって門戸を開放しようという考え方を持っていたのに対して、徳川家康は保守的で、閉鎖的な考え方をする人間だったから、外国に対してとても警戒心が強く、そこから外国人はすべて受け入れないということを決めたの。特に、ポルトガルに対してはそれが厳しくなったということね」
「どうしてポルトガルが、それほど嫌われたのですか。そこには何か政治的なものがあったのでしょうか」
「嫌われたというよりも、警戒されたということでしょうね。
 政治的なものがあったことは事実のようね。というのは、この時代ヨーロッパ諸国の東アジアへの進出が急に増えて、中でも日本の市場が有望だということで、ポルトガル以外に、スペイン、オランダ、イギリスなどが日本政府、つまり徳川の政府に接近を試み、それぞれがいろいろな工作をしたようね。あのころは、政府のことを幕府と呼んでいたから、正式には徳川幕府ということになるけど。
 この外国からの勢いに、警戒した徳川幕府は、アジアの他の諸国のように、西洋の国々の植民地に日本もなってしまうのを恐れ、外国人を閉め出すということを決めたわけね。
 ただ、その動きの中で、オランダやイギリスなど、この頃からポルトガル、スペインを上回るようにして世界の海に伸びていった国々が、それまで日本では外国勢として大きな勢力を保持していたポルトガルを何とか引き摺り下ろそうとして、中傷したり、根拠のないうわさを流したりして、錯乱工作を計ったようね。
 この時はもう、徳川家康ではなく、次の二代、三代目の将軍になっていたけど、とにかく世界の中でのヨーロッパ諸国の勢力自体も、かなりの変化を見せていたということね。その中でポルトガルも徐々に力を失っていくことになったわけ」

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