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中島宏著『クリスト・レイ』第40話

「その辺りから、キリスト教徒に対する弾圧は本格的なものになっていったのね。徳川幕府にとっては、そこまで徹底した態度で抵抗する信者たちに、薄気味の悪さと、理解できないような不気味さを感じ取ったのでしょうね。幕府の態度もそれ以後、ますます頑なになり、迫害の度合いも、考えられないほど熾烈になっていったということなの。
 でも、その後もキリスト教信者たちは、あちこちで抵抗する動きを見せ、簡単には収まってはいかなかったわ。このずっと後の時代だけど、一六三七年に同じ九州の島原という所で、大規模なキリスト信者たちの一揆が起きて、それまでにはなかった激しい戦闘が、幕府を相手に繰り広げられていったの。
 結局、この暴動は翌年の一六三八年には鎮圧されたけど、キリスト教信者たちのこれだけの激しい抵抗に合ったために、幕府はさらに徹底したキリスト教徒狩りを行っていたわけね。それは、日本中で行われたけど、キリスト教の影響が強かった九州の地方では、特にそれがひどかったということね」
「へえー、日本で、それほどまでのキリスト教徒への弾圧があったということは、僕は全然知りませんでした。しかし、そういう物語は、他国のキリスト教徒から見ると、何か信じられないような気もするし、実際に、日本人の信者たちがそこまで徹して、キリスト教に傾倒し、それを守っていったということは、感動的ともいえますね。
 そこまで根深くキリスト教が日本に浸透していったのは、ちょっと不思議な感じもありますが、それだけキリスト教は当時の日本人の心を掴んだということなのでしょうか」
「その辺りのことは、私にははっきり説明できないけど、私の勝手な想像からいうと、あの時代の日本には、まったく知らない、未知の世界から来たものに対して、かなり新鮮な空気を感じ取り、それを吸収しようという雰囲気が強くあったのじゃないかしら。

 十六世紀にポルトガルから入ってきた鉄砲が、ほんの短期間に日本での戦の形を変えてしまったことにも似て、とにかく、日本人というのは外国から入ってくる新しいものに対して、かなり敏感に反応するという傾向を持っているということでしょうね。
 そして、それを自分たちに合わせるようにして吸収してしまうという傾向を強く持っているみたいね。キリスト教を受け入れたのも、そういう面がかなり影響したというふうに、私は考えるわ。それと、最初の布教を行った、あのフランシスコ・ザビエルの人柄が、当時の日本の人々に大きな感銘を与えたことも、そこにはかなり影響しているのでしょうね。
 ところでマルコス、徳川幕府があれだけ厳しく弾圧したにもかかわらず、何百年経った後でも、まだキリスト教徒が存在したということは、ちょっと不思議に思わない?」
「それですよ。それを僕もずっと考えてきたのですが、どうして、そのようなことが可能になったのかということが、本当に不思議に思いますね。ある面からいえばそれは、奇跡ともいえるようなことでしょう。そういう、普通では考えられないようなことが、どうして起きたのかという点に、僕は大変興味がありますね」
「マルコス、あなたは今までカクレキリシタンという言葉を聞いたことがあるでしょう」
「カクレキリシタンは、ここの日本人のグループの間で話しているのを聞いたことがあります。それは、何か宗教に関した用語としての日本語なのですか」

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