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中島宏著『クリスト・レイ』第116話

 つまり、アヤのように広い視野で、ブラジルのことあるいは世界のことを考えるというところがない。彼らの発想は常に、後にしてきた日本に繋がっていて、そこから一歩も出ようとしないという傾向があります。
もちろんこれは、僕のようにブラジル人の一人としての見方であり、考え方ではあるのですが、その辺りの差が、彼らとアヤとの間に鮮明な形で現れています。そこに僕が言う、あなたの強い個性があるということですね。
特にそれが、日本人の女性であるという点に新鮮な驚きを感じます。僕が言う個性というのはつまり、そういうことなんです。これは誰にでもあるというものではなく、非常に珍しい例だと僕は思っています」
「一般の人とかなり変わっているという意味であれば私の場合、マルコスの言うその、個性的ということになるかもしれないわね。そういう意味であれば、何となく私にも納得できそうな感じね。あるいは、このブラジルという新しい国に移民してきたことによって、それがきっかけとなって、そういう面が特に強調されて現れてきたともいえるかもしれないけど、でも、本当のところ私の場合は、性格的なものから来ているともいえそうね。
いえ、間違いなくそこには、性格が現れているといっていいでしょうね。まあこれは、家系といってもいいかもしれないけど、とにかく、私の父は何かを追及しようとすると、それを徹底的に、どこまでも追いかけていこうというところがあったようね。

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