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中島宏著『クリスト・レイ』第150話

 それは、以前にマルコスも指摘したように、このブラジルでのカトリック教会にあるキリスト像とは、変わるはずはないのだけど、現実にはしかし、そこには厳然とした違いがあるわけね。
こんなことを言ったらおかしいかもしれないけど、私たち隠れキリシタンが持つキリスト像は、他の教会のものとは違うということね。同じキリスト像がなぜ違うのだと聞かれても、はっきりした説明がつかないの。
 それを、たとえばこの際、一緒にしようと言われても、まず難しいでしょうね。もし、それをしたら、ずっとここまで抱いて来た私たちのキリスト像が、一度に崩壊していってしまうのではないかという大きな不安が、そこにはあるわけね。
 マルコスには想像できないかもしれないけど、あの抑圧されていた時代、隠れキリシタンの人たちは、仏像をキリスト像に見立てて拝んでいたの。その仏像には、仲間にしか分からない印があって、それは、見かけは仏像であっても彼らにはキリスト像だったわけね。
そこまでして、隠れキリシタンの人たちは、自分たちのキリスト教を守ったということだけど、考えてみると、その力というものは常軌を逸したものといえるわね。
 見つかれば捕らえられ処刑されるという現実にも、あえて挑んでいったその不屈の精神は、普通の感覚の人間から見たらちょっと考えられない行動だけど、それがずっと、何百年にも亘って継続されていったの。
 迫害に耐え、拷問に耐え、逆境に耐え、家族や親族たちの不幸にも耐え抜くことができるには、よほど強靭な精神がないと、とてもできることではないわ。それも、気が遠くなるほどの世代を経て受け継がれていったから、それは想像を遥かに超えるものね。
そういうふうにして守られ、継承されて来たキリシタンたちのキリスト教は、異質なものであるというよりも、独特なものと言った方がいいかもしれないわね。
 だからね、同じキリスト教カトリックのイエズス会から派生していったものではあっても、今では隠れキリシタンのキリスト教は、独特の形を持つものになっているということね。そこに、私が前に言った、同じイエス キリストがその中枢にあっても、実際にはそれぞれに微妙な変化が生じているということになるの。そういう重い歴史を引きずってきている隠れキリシタンだからこそ、たとえ同じイエズス会の流れを持つものではあっても、このブラジルのカトリック教会にそのまま合同するようにして一緒になるという気持ちが湧いてこないということになるわけね。
 私には、その辺りの事情がとてもよく分かるけど、一方でしかし、このカトリック大国とも呼ばれるブラジルで、その方面での理解ということも考える必要があると思うの。
 つまり、個人の問題でいえば、同化ということかしら。一度にというわけには行かないでしょうから、これは時間をかけながら徐々に進めていくということでしょうね。
 ある意味で、クリスト レイ教会というのは、そういう過程でのひとつの記念碑といえるかもしれないわね。マルコスから見れば、なぜ、同じキリスト教のカトリックでありながら、ブラジルの教会には行かず、辺鄙な所に自分たちだけの教会を造るんだということになるでしょうけど、結局、今の段階ではそれも止むを得ないことだと思うのね。

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