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安慶名栄子著『篤成』(15)

 周りの人たちは皆父の面倒見のいいことにとても感心していました。父は様々な苦労を経て、日本人特有の内気な性格だったが、親近者にはよく知られていた外交的な面もありました。
 現地で競馬が計画準備された時期があったのをよく覚えています。父はもちろん、参加することに賛成しました。
 よく考えると、父は何にでも参加しました。「あなたたちを喜ばせたいから」といいましたが、私たちにとっては本当に楽しい時期でした。
 セリーニャとセードロの間で行われる競馬の時に安全で競争を最初から最後まで眺められる様に父は、私たち三人姉妹を小高い丘の上に座らせてくれるのでした。そして、真っ白なトラジリオに乗って、活気満々で競争に挑むのでした。
 父はいつも一等賞を獲得しました。いつも。競馬に参加する時は、父に勝るものは一人もいませんでした。
 兄の恒成は疑いもなく父の大胆不敵なところを受け継いだうえ、優れた頭脳の持ち主でした。学校でも優等生でした。彼は魚釣りと水泳が大好きで、時間があると家の近くにあった川で過ごすのが好きでした。ただし、その川は浅く、水泳や魚釣りにはあまり適していなかったのです。
 ある日、兄はバナナの樹の幹で川の一部を囲み、ダムを造ったのです。はい。恒成専用のプールが出来上がったのでした。私たちは、泳げなかったので川の浅いところで水遊びをしながら兄がすいすい泳ぐのを見るばかりでした。
 私たちが住んでいたところはバナナ農園と草むらのすぐそばだったので、蛇もたくさんいるところでした。そんなある日、父がバナナの収穫をしたときに、一房のバナナにジャララカという毒蛇もついてきたのでした。それに全く気付かず、父は毒蛇をすぐそばに長い距離を移動したのでした。
 私たちは長年そこで暮らしたのですが、蛇との出会いに関しては一度たりとも問題になったことはありませんでした。

第11章 新しい家

 時が過ぎ、父が賃借した土地の質が段々と低下してきてしまいました。結果としてバナナの収穫は以前に比べてかなり減ってしまったのでした。お米の植え付けもありましたが、それは自給用で、バナナが主役だったのです。
 各収穫期の収穫量が段々と減少していくことに気づいた父は、別の土地をも賃借することにしました。古谷さんという日本人が賃借用の土地を所有しており、交渉の結果、ガスパールさんと同じように40パーセントの割合で話がまとまりました。
 新しい土地に新しいお家を建て始めたのですが、家が出来上がらない間、父は毎日3人の娘をトラジリオに乗せ、自分はそばから歩いて畑へ行くのでした。兄の恒成はガスパール家のエヂベルト君と遊んでいる方がいいと、一緒に行きませんでした。
 父は、相変わらずお父さん役とお母さん役を両立するのに身を砕くほどの努力をしていました。物質的な糧のみならず、精神的な糧をも与えてくれる努力を惜しみませんでした。

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