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早くも次の目標をあげる優勝請負人

五輪でのダニ選手

五輪でのダニ選手

 東京五輪で2連覇を達成した男子サッカー。通常、「五輪サッカー」といえば、若手選手の登竜門という印象が強い。今大会からもそうした選手が生まれなかったわけではない。だが、この大会でひときわ輝いていたのは、別名「優勝請負人」と呼ばれる男の存在だった。
 その男とはダニ・アウヴェス。今年で38歳となるブラジルサッカー界きっての大ベテランだが、試合を見ていても年齢は全く気にならず、むしろ24歳以下の若手選手よりも動きが良かったくらいだ。
 しかも、攻撃と守備の両方が要求される運動量の多い右サイドバックの守備位置で、連日のように炎天下だった日本の真夏でその動きだから驚くほかはない。五輪後、多くのサッカー・メディアが彼を文句なしにベスト・イレブンにあげていたのも納得だ。
 この優勝でダニは、実に42度目のトロフィーを手にすることになった。世界のプロ・サッカー史上最多の優勝記録の保持者はダニ自身で、ペレやメッシ、イニエスタの37回を大きく上回っている。その自己記録をさらに更新することになった。
 だが、それが42回で終わるかどうかはまだわからない。それはダニ自身が五輪優勝後のインタビューで早くも次の野望を口にしているからだ。
 その野望とは「22年のカタール」、つまり次のW杯だ。このときには39歳になっているダニだが、その目標がおかしいなどという人はブラジルのサッカー・ファンにはいない。むしろネット上の声でも「カタールには是非、彼の力が必要だ」の声が圧倒的だ。
 その理由のひとつには、前回のW杯以降の彼の実績が抜群であることが挙げられる。18年W杯では、選ばれていたのに負傷で出場を逃した。その悔しさからか、それ以降の彼は絶好調で2019年のコパ・アメリカでは36歳で最優秀選手、そして今回の五輪での大活躍だ。
 二つ目の理由はポジションだ。右サイドバックはセレソンの中では比較的層の薄いポジションで世界トップクラスの選手はダニーロ(ユベントス)のみ。二番手は若手で争っている状況だが、体の動き、実績ならダニが上だ。
 三つ目は「選手からの信頼」だ。カタール大会は30歳を迎えるネイマールの円熟の大会となるが、ダニはバルセロナ時代からの長年のチームメイトで気心が知れている。エースにとってやりすい環境ができるのは大きなプラスでもある。
 あと、ダニ自身のブラジルでの人気上昇もある。とりわけ19年のコパ・アメリカでの活躍後、欧州強豪から殺到した移籍オファーを蹴って祖国愛からサンパウロFCを選んだ心意気は愛されている
 こうしたことがわかっていてのダニの五輪抜擢だった気がコラム子にはしている。五輪でモチベーションをあげ、W杯に向けさらに士気を上げさせる。セレソン側の絶妙な作戦だったような気がしている。(陽)

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