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キノコ雑考=ブラジルに於けるキノコ栽培の史実とその背景=元JAIDO及びJICA 農水産専門家 野澤 弘司 (12)

野澤の兄貴分として盃を交わした、ペルーの先住民の若き酋長。私の愛用のオーストラリア産のカンガルーハットをかぶってご満悦の様子

野澤の兄貴分として盃を交わした、ペルーの先住民の若き酋長。私の愛用のオーストラリア産のカンガルーハットをかぶってご満悦の様子

 当時は中央市場にキノコを持ち込んで売り捌くのは私だけで、取引は全て現金商売で焦げ付きはなかった。時折売上げのヨレヨレの薄汚い札束のシワを伸ばしながら数えていると、大男で恰幅の良いフイスカル(税官吏)からノッタ(売上げ伝票)の提示を求められた。しかし私は未だ生産者としての登録もノッタも無いので、ポルトガル語の単語を並べただけの言い訳けではもどかしく、業を煮やして諦めて僅かばかりの小遣銭で無罪放免になった。
 また時折天候不良や予約人の都合で売れ残ったキノコは、古本が共営する缶詰工場“YALE”までバスを3度も乗り継いで届け、市場の半値で引き取ってもらった。
 11月から翌年3月までの夏場は、空調設備の無い菌舎内の温度は菌糸の生育には上限温度の23℃を超えキノコの発生は止まるので余儀なく休業した。休業中は種菌の培養や菌舎の補修が終わると、収入も増えたので持ち前の放浪癖がうずき、南米各地への徘徊に旅発った。
 取り分けペルーは山海の森羅万象が、学術的、商業的そして観光資源としても垂涎の的だった。即ち、海岸線からアンデス山塊に至る各標高差に準ずる熱帯、温帯、寒帯にかけてのケッペンの気候区分を地で行くかのように生きる多くの動植物相や、それを育む大自然の織り成す神秘の営みは、何度訪れても新しい発見があり魅了された。
 野菜、果実、穀物、香辛料、油糧植物等々、日々の食卓を彩る食材の約20%はペルーの山野が原産地である。更に先住民ゆかりの伝承生薬資源や希少種の花卉類も豊富で、ペルーは別名「宝の山に眠る」???と揶揄されていた。各地に散在する体躯や風貌が我々大和民族に酷似した先住民の生活様式や伝承医薬や呪術などにも大いに魅了され、Bola族の若き酋長と兄弟分の盃を交わすなど、ペルーは私の好奇心と放浪癖、そして埋もれた資源の商品開発を満たしてくれた中南米屈指の理想郷であった。

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