ホーム | 日系社会ニュース | 50年ぶりの祖国で〝浦島太郎〟(6)=サンパウロ市 広橋勝造=友人の奥さんの手で別人に変身

50年ぶりの祖国で〝浦島太郎〟(6)=サンパウロ市 広橋勝造=友人の奥さんの手で別人に変身

 服装で思い出した。
 八王子の友人の家に世話になった折、友人の奥さんが突然「新宿の○○デパートに行きましょう」と誘ってくれた。
 日本のデパート、半世紀ぶりだ、気持ちがワクワクしてきた。一流企業に勤める気の利いた娘さんまで同行してくれるそうだ。
 美味しそうな食べ物が一杯陳列された地下街からエスカレーターで上階に上がっていった。みんな高そうな高級品が並び、俺が買えそうな物はなかった。
 ある階に着いた時、
娘さん「お母さん、ここに良い物が揃っているわよ」、友人の奥さん「そうね、見ていきましょう」と二人が目を見合わせた。
 しばらくして奥さんが「広橋さん、ちょっと来て」、別のコーナーの陳列に見入っていた俺「はい」と言ってブロックを回って奥さん達に合流した。
 奥さん「これとこれ、試してみなさい」と言って俺には不似合そうな2つの若者向けのシャツを進めた。俺は「はい」と言われるままに着替え室に入って試してみた。ピッタリで俺のイメージを変えた。
 着替え室を出ると、奥さんと娘さんは俺の服装についてヒソヒソ話をしながら、俺の格好を品定めしていた。それから、娘さんが別コーナーから首巻を持ってきた。ブラジルは夏だが日本は今、冬だ。奥さんは俺の首に首巻を巻いて品定めをした。
 俺はマネキン替わりなって硬直しながら、何で自分の旦那を連れてこなかったんだと思った。
奥さん「広橋さん、見違えるようにカッコよくなりましたよ。少し若返った様ですよ、それでいいですね」
俺「えっ、こっ、これ、三井さんの…」
奥さん「いいえ、広橋さんに買ったのですよ」
 心の中ではこんなにカッコよくなって嬉しくて嬉しくてたまらなかったけど、俺「いえ、トンでもない、そんな事…」
奥さん「いいですから、そのままで帰りましょう」
 ――今、思うに、寒そうで50年遅れの惨めな服装で訪れた俺を、見るに見かねて服装の改善してくれたのだ。それに日本滞在中、旦那の冬コートを貸してくれた。
 友人の奥さんと娘さんの計らいで日本滞在中、颯爽と街を歩く事が出来たのだ。鈍感な俺、今頃になって、奥さんに『ありがとう』。
 訪日する時、服装の事は何時も問題になる。ブラジルと日本は季節が真逆だからだ。現地ブラジルの店頭で訪問先の季節に合った服が買えないのだ。それで、いつも使い古しの服装になる。
 それに訪問先で服なんかの購入は助けがなくては出来ない、品物の良し悪し? どの店頭で? 高いのか安いのか?などなど分からない。
 それに、こちらに帰ってみるとブラジルの服装にマッチしないなどなど…。でも、あの時の長袖シャツはブラジルでもおしゃれで、今も使っている。俺のお気に入りの服装だ。

 

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