ホーム | Free | 【日本政府支援事業「サンパウロ日伯援護協会」コロナ感染防止キャンペーン】持続可能で生態学的に正しい生活を=歯周病患者は感染が3倍多い=『口は人が生きるための入口』=日伯友好病院歯科診療所 浜田氏に聞く

【日本政府支援事業「サンパウロ日伯援護協会」コロナ感染防止キャンペーン】持続可能で生態学的に正しい生活を=歯周病患者は感染が3倍多い=『口は人が生きるための入口』=日伯友好病院歯科診療所 浜田氏に聞く

 サンパウロ日伯援護協会(税田パウロ清七会長)傘下の日伯友好病院歯科診療所で、コーディネーターとして活動している浜田セルジオ・テツオ氏。同氏によると、昨年3月の新型コロナウイルスのパンデミック以降、感染への恐れと、衛生管理および地域歯科医療評議会のプロトコル(規定)に従ったこともあり、一時的に歯科診療所の患者数は減少したという。ところが、外出を避ける生活環境下のストレスにより、昨年7、8月頃から睡眠中の歯ぎしり等の症状が増加。治療や相談のために患者数が増える傾向にあったそう。浜田氏は「口は人が生きるための入口」と語るなど、コロナ禍における口腔衛生の重要性を強調している。

基本的なコロナ感染対策

 現在、日伯友好病院の歯科診療所には浜田氏を含めて8人の歯科医が勤務。聖市パルケ・ノボムンド区にある同病院周辺の住民(大半は非日系ブラジル人)をはじめ、モジ・ダス・クルーゼス、スザノ、アルジャーなど近郊都市からの来訪者の治療も行なっていることから、日系人患者も4割ほどいるという。
 一般に対する基本的なコロナ感染対策推奨事項として、浜田氏は次の6点を挙げる。

コロナ感染対策にも推奨されている口腔洗浄剤、デンタルフロスなど(提供写真)

(1)石鹸と水、またはアルコールによる手の洗浄。
(2)マスクの使用とソーシャル・ディスタンスの確保。口腔内の洗浄と口腔洗浄剤(マウスウオッシュ)の使用。口腔内にむやみに指を入れないこと。
(3)人混みを避け、オープンな場所で活動すること。
(4)コップ・グラスやタオルなどを共有しないこと。
(5)購入した食料品や外部から発送される配達物の消毒・洗浄だけでなく、家庭内での衛生環境を整えること。
(6)インフルエンザや風邪の症状、味覚の消失などを日頃から確認すること。
(7)口腔衛生(歯、歯茎、頬(ほお)、粘膜)を毎日良好に保つこと。定期的に歯科医院で受診し、柔らかい歯ブラシ(3カ月ごとに交換)、デンタルフロス(糸ようじ)、口腔洗浄剤を使用すること。

意見交換の大切さ

 日伯友好病院の歯科診療所では、コロナ禍以前から院内での感染症対策には万全を期しており、パンデミック以降も基本的な感染対策をさらに強化してきた。
 そうした中で各歯科医師をはじめ、看護助手やスタッフとのコミュニケーションを大切にしており、コロナ禍での特殊なケースの発生など必要に応じてオンライン上または対面での意見交換や講習などを率先して実行している。
 このことは、浜田氏が1980年代後半に日本での研修で得た体験が背景にあり、より複雑な状況下で様々な患者の症例に対応する方法を理解することに役立っているという。

治療現場での難しさ

日伯友好病院歯科診療所の設備(提供写真)

 治療現場において浜田氏は、「同じ家に一緒に住んでいる家族でも、奥さんがコロナに感染したものの、その夫と2人の息子は陰性反応で何の問題もなかったというケースがありました。コロナも変異株など急激に変異していく中で、どのように対応するのかが非常に難しいです」と、その困難さを指摘する。
 日伯友好病院に運ばれたコロナ重症患者で、口内から膿(うみ)が出てきたために歯科診療所に「口腔内を治療してくれ」との依頼が、今年に入って10件ほどあったという。一つのケースは90代の高齢者で、呼吸困難を和らげるためにその患者をベッドにうつ伏せの状態にしていた。
 ところが、「(口腔内の治療に)呼ばれた時はすでに手の施しようがなく、その人は1週間後には亡くなられました」と、浜田氏はその時の状況を振り返る。

コロナ感染しやすい歯周病

日伯友好病院歯科診療所の設備(提供写真)

 浜田氏が歯科診療所のコーディネーターとして、同診療所チームに常に話しているのは「歯科医に奇跡はない」ことだという。
 「例えば、歯の神経の治療ができないのであれば、神経を抜くしかない。歯の治療にマイズ・オウ・メノス(大体)はなく、100%治療を行わないと病気になってしまう。『口は人が生きるための入口』と言われるほど、口腔ケアは大切だということです」
 また、歯周病からコロナに感染するケースもあるという。コロナで入院している患者は、歯肉炎を起こしている人も少なからずおり、歯周病菌の中にコロナウイルスも存在する。さらに、歯周病患者には心疾患、肥満、糖尿病などの合併症が多く、コロナのリスクグループに入りやすくなる。浜田氏によると、歯周病患者は、コロナに感染する可能性が通常の人より3倍高くなるそうだ。

歯ぎしりの増加

 そのほか、コロナによる外出制限などのストレスにより、昨年7、8月頃から睡眠中の歯ぎしり(Bruxism)等の症状も増えている。そのため、歯の破折(はせつ)や痛み、顎(あご)関節の痛みなどの症例も多い。その対策として、睡眠中にマウスピースを付ける人もいるというが、歯科診療所では患者によって一番合う対応策を助言している。
 浜田氏はこれらのことから、一日に何度も歯を磨くことの大切さを強調する。
 「研究によると、口の中には体の他の部位よりも多くの有害な微生物が存在しています。そのため、口腔内の衛生管理を重要視しなければなりません。これらの微生物の多くは、口を介して人体に病気を運ぶ可能性があるからです。口腔衛生は、新型コロナウイルスの感染や伝播、後遺症の可能性を減らすための重要な手段となります」

無料小児歯科の活動

 一方、日伯友好病院には一般を対象にした歯科診療所とともに、「小児歯科クリニック」もある。2008年に味の素ブラジル社の寄付協力により開設され、3~13歳の周辺地域の貧困層家庭の青少年を主な対象に、無料での歯科治療を実施。浜田氏自身も週1回、同クリニックでの治療にあたっている。
 浜田氏は「貧困層の子供たちは親からの教育を受けにくい立場にあり、また経済的な面で治療を受けられないことを考慮して、無料治療をするようになりました」と、日系社会ではあまり知られていない地域貢献活動の経緯を説明した。

コロナとの共存

味の素ブラジル社から寄付協力を受けた時の記念プレート(提供写真)

 浜田氏は新型コロナウイルスについて、「このウイルスは私たちの間で生き続けるでしょう。人間の体は抵抗力を強めますが、ウイルスも他の生物と同じように生き延びようとします。より効果的な新しいワクチンが登場し、このパンデミックをコントロールするでしょうが、ウイルスの変異が激しいため、人間は感染しないように注意を払い続けなければなりません。新しい病気が出てくるというのは、生物の世界では当たり前のことなのです」と説明する。
 また、浜田氏は新型コロナウイルスに対する考えとして、「コロナによって多くの死者が出たのは大変残念なことですが、同じ目的のために世界が団結したのだと思っています。世界が一つになって、新しい人生の価値観が考えられるようになるならば、別の意味でとても良いことだと思います。持続可能で生態学的に正しい生活を行うためにも、新しいコンセプト(概念)に向けた真のグローバリゼーションと言えるのではないでしょうか」との見解を表している。


浜田セルジオ・テツオ氏の活動

日伯友好病院歯科診療所の浜田コーディネーター

 浜田セルジオ・テツオ氏は1984年9月から、当時のブラジル日本文化協会(現・ブラジル日本文化福祉協会)地下に開設された援協診療所で歯科医として勤務。援協診療所が「リベルダーデ医療センター」として2009年に現在のファグンデス街に移転後も、歯科医師として12年1月まで勤めた。
 並行して、1985年から聖市内ブルックリン地区で開業医活動と、サンパウロ歯科医師会(OPNE)での歯科外科治療および特別治療も実施している。

1984年9月、文協地下に開設された援協歯科部で勤務する当時の浜田氏(提供写真)

 そのかたわら、2001年から日伯友好病院に開設された歯科診療所で働き、昨年1月には同診療所のコーディネーターに就任した。当初、週3回通っていた歯科診療所には現在、自身の開業医の活動以外に基本的には週1回通院。
 自ら患者への応対をはじめ、若手歯科医や看護助手・スタッフへの指導、同診療所の総合的な運営と管理を任されている。また、サンパウロ歯科医師会の科学委員会(COCI)副責任者なども兼任している。

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