出発してからしばらく沈黙が続いた。トメアスの時と同じで、一行は『ナンマイダー』でむすばれた群衆との別れを惜しんだ。
第十四章 真理
アマゾンから帰って数日後、サンパウロのジョージのアパートで、中嶋和尚が麻の法衣にアイロンをかけていた。
「戻りました」ジョージが普段より早く仕事から戻ってきた。
「夕食にしますか?」
「まだ、早いですね。今日は金曜日だし、東洋街で一杯やりましょう」
二人は歩いて十分の、この界隈で一番安い中国人の立ち飲みバー『シェン』に出向いた。金曜日とあって、チョイ飲みの常連と、夕食やカラオケの待ち合わせの日系人で混んでいた。
「おう! ジョージさん」
「ユキオさん、久しぶりですね。お元気そうで、百キロも離れたソロカバ市からわざわざ飲みに?」
「毎週金曜日は飲み友達に会いたいからね。飲酒運転の取締が厳しくなったからバスで来るんだ。ブラジルもやっと真面目な国になってきたね。この方は?」
「中嶋さんです」
「中嶋です。よろしく」
奥から手を上げて、
「おう、ジョージ! あのボーズの件、上手くいったか」
男が奥から出て来た。
ジョージは顔をしかめて、
「ボーズと呼ぶなと自分で言っといて、ソウリョと呼ぶんじゃなかったのか! それに、お前には関係ないだろう」
「なんだその返事は!そんなに俺を警戒しなくてもいいだろう。ボーズの件解決したらしいな。じゃ、カンパイだ」
ジョージはまだ空のコップを少し浮かして、いやいやながら乾杯に応えた。
その男はコカコーラを頼んだ中嶋和尚を指して、
「彼は?」
「中嶋と申し・・・」ジョージの親しい友人と思って、丁寧に挨拶しようとした中嶋和尚の足をジョージが踏んで、それ以上の接近を阻止した。
「初めてお会いする方ですね。サンパウロニッケイ新聞の古川です」
「・・・、」中嶋和尚はジョージの指示に応え、無言で挨拶した。
「(頭をまるめた泥棒を捕らえたのか?)」と、古川記者はポルトガル語で嫌味を投げた。
嫌味を言われても平静な中嶋和尚の態度を見て、
「(ジョージ、この方、ポルトガル語がさっぱりじゃないか。日本から来たボーズだな)」
「ポッ!(ちぇ! 記者はこれだから嫌いだ)」