ホーム | 日系社会ニュース | 北京五輪=柔道男女で銅メダル3つ=女子では史上初の快挙=篠原男子監督「70点の成績」=今後は若手育成に注力

北京五輪=柔道男女で銅メダル3つ=女子では史上初の快挙=篠原男子監督「70点の成績」=今後は若手育成に注力

 「全体では七十点。金メダルを取っていたら九十点から百点の成績だった」――。先の北京五輪を終え、このほど帰伯したブラジル男子柔道の篠原ルイス監督(54、三世)は、少し物足りそうな表情を浮かべてこう振り返った。
 今回の五輪でブラジル柔道は、男女含めて三つの銅メダルを獲得した。女子では、ケトリン・グアドロス選手(57キロ)がブラジル女子柔道会に初めてのメダルをもたらすなど大きな躍進を印象付けた。
 一方、昨年のリオ世界選手権大会で、金三つを獲得するなど大活躍を見せた男子は、最有力のジョアン・デルリ選手(66キロ、〇五年、〇七年同選手権金)が二回戦で敗退。シドニーで銀、アテネで銅のチアゴ・カミーロ選手(81キロ)は今回も銅、レアンドロ・ギリェイロ選手(73キロ)もアテネに続いて銅に終わった。
 とくに期待されたデルリ選手については、ポルトガルの選手に先に反則を取られたことに焦り、投げ技を仕掛けたのが逆に返されての技あり。そのまま時間切れで負けた。「デルリはメダルを意識しすぎていた。主導権を先に取られたのが敗因」と篠原監督。金メダル候補のまさかの敗退を残念がった。
 こうした結果に終わりながらも、日本人移民が芽吹かせたブラジル柔道は、石井千秋さんが一九七二年にミュンヘン五輪で銅メダルを取って以来、五輪では通算十五個のメダルを獲得。今回の五輪を含めると、ヨット競技に続いて、ブラジルの二番目のメダル獲得種目にもなった。
 このような実績を着実に積み重ねた要因として、篠原監督や全伯講道館柔道有段者会の関根隆範副会長は、「ブラジル柔道界はオリンピック委員会や政府、企業からの資金援助を受けて、代表選手に専属の栄養士やカウンセラーをつけるなど、積極的な支援を続けている。有望な選手が柔道に打ち込める体制が整っていることが大きい」と話す。
 加えて石井さんは、〇六年三月に日本政府の資金援助のもとサンパウロ市イビラプエラ地区に建設された〃南米の講道館〃の役割も評価する。「これのおかげでブラジルの選手が外国に出ずに、世界中の一流選手と腕を磨けるようになったことは忘れることはできません」。
 また篠原監督や関根副会長によれば、ブラジル柔道は、将来を見据えて、女子を含めた若手選手の育成にも力を入れている。今回の五輪には、代表選手とともに二十三歳以下のブラジルの若手選手を初めて同行させ、代表選手の練習相手として、五輪直前まで千葉県勝浦市の国際武道大学で合宿した。「四年後には今の代表選手も年齢的にきつくなる。だから今から若手に国際舞台を経験させるのが大事です」。
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 北京五輪でグローボ局の解説員を担当した石井バニアさん(シドニー五輪七位)は、「足ばかり取りに行った選手には、指導がしっかり出ていた。審判の大きなミスはなかったが、レスリングのような柔道スタイルで捨て身技を狙う選手が多かった」と振り返る。
 石井千秋さんや関根副会長も、「『勝ちは勝ち』として、ポイントだけ取って、あとは逃げ切ろうとするヨーロッパの選手が多かった」と指摘。これは昨年のリオの世界選手権でも同じだった。
 バニアさんは「柔道の基本はしっかり組むこと。本来のあるべき柔道の姿に戻って欲しい」と願う。ただ、篠原監督は「日本的なしっかりと組む柔道が基本のブラジルでも、勝つためには今後ヨーロッパのスタイルも研究していく必要がある」と複雑な表情で言う。
 日本の柔道は今や世界二百カ国に広まり、「JUDO」となった。このため、各国独特の格闘技の要素が加わったり、政治や企業の影響を受けて、勝ちを優先するスタイルが主流になるのは仕方ないことのようだ。

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