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越境する日本文化 野球(2)=ブラジルの起源は米国=日系人の娯楽として普及

3月6日(木)

 ブラジルにサッカーをもたらしたのが、「母国」イングランドであったのと同様に、野球もその発祥の地アメリカによって持ち込まれていた。
 〈日本人が始める以前に、当時在聖の米国人たちによって、すでに行われていた〉。一九八五年に刊行されたブラジル野球史は、この国における野球の起源をこう記す。
 初期の移民の証言やブラジルの文献により二十世紀初頭、サンパウロ市に進出した電力配給会社や米国総領事館に勤務した米国人がそのパイオニアだ、と結論付ける。 遅れること数年、一六年九月二十四日に日系社会でもプレーボールが宣告された。
 同年九月二十四日、ブラジル日本人青年會野球部が発足。初期の日系人が集ったコンデ街の下方にある赤土の野原が、最初のグラウンドだったという。
 サンパウロ市で花開いた野球熱は、その後地方の植民地にも伝わり、二〇年代以降には奥地にプ・プルデンテ、アリアンサなどのチームが誕生する。
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 「あの人にはもう会いましたか」。複数の野球関係者が示し合わせたかのように、その名前を口にするブラジル野球界の生き字引がいる。
 高柳清、八十歳。
 現在の群馬県人会長は、オールブラジルに選手として出場し、指導者としてもパウリスタ野球連盟技術部長やブラジル代表の監督などを経験。人生の大半を白球に捧げてきた。
 三二年八月、当時十歳だった高柳は一家揃って来伯。バストス市カスカッタ区に入植する。
 出身地の群馬県で、兄やいとこの影響を受け野球を始めた高柳は、入植後も綿作りや養蚕の合間にボールを手にしていた。
 小柄ながら俊敏さとセンスが評判だった高柳は、同市でも有数のセカンドとして名を知られていく。
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 昨年七月、サンパウロ市で開かれた郷土食・郷土芸能祭の会場で、高柳は約七十年ぶりに一枚の写真と再開した。
 移民史料館が出品した写真パネルの中には、ユニフォーム姿の青年ら約六十人の集合写真があった。
 三六年九月に初めて「全伯」を名乗った全伯野球大会の出場全四チームによる記念撮影だ。サンパウロ、バストス、チエテ、パラグアスーが参加したリーグ戦では、サンパウロが初代王者に輝いている。
 「私もこの中にいるんですよ」と複製した写真を手に目を細める高柳は、当時まだ十五歳。人一倍小柄ながら、大会最年少選手としてバストスの一員として活躍した。「サッカー場を球場にしたから、左翼の長さが短くて左右対称じゃなかった」と苦笑いする高柳。
 野球が主流の日本ではありえないエピソードも、当時のブラジルならではだ。
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 順調に発展しつつあった同大会も、四一年の大会を機に一時中断。第二次大戦で敵性国民と見なされた日本人は、野球など一切の競技を行えなくなる。
 高柳自身、日本語を話したなどとして三度、拘留された経験を持つ。
 〈今に見ておけよ〉。祖国の勝利を信じて疑わない高柳は、戦争後の野球の再開を夢見ながら、時折キャッチボールを続けていたという。
 戦前戦後を通じてボールを追った野球人は、目を輝かせながら、当時の日系人選手の心境を代弁する。
 「娯楽といえば野球。昔の移民には、年に唯一の楽しいお祭りだった」
 まだまだ牧歌的な時代だった。
       (敬称略)(つづく、下薗昌記記者)


■越境する日本文化 野球(1)=日本で花咲く「ヤキュウ」=日系人トリオが甲子園に

■越境する日本文化 野球(2)=ブラジルの起源は米国=日系人の娯楽として普及

■越境する日本文化 野球(3)=「新来」移民も参加=全伯チームで早稲田に善戦

■越境する日本文化 野球(4)=近代を持ち込んだ「野球移民」=完全試合投手も来伯

■越境する日本文化 野球(5)=日伯交流の陰にサンパウロ州球連=底辺拡大めざす新会長

■越境する日本文化 野球(6)=世代を超える「野球」=非日系への普及も進む

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