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北伯の柔道暑中稽古=松尾報告7月に柔道漬けだった(下)=東農大の先輩と35年ぶり再会=前田光世の墓に参る

8月12日(火)

 六五年に渡伯してから三年間、私(松尾)はベレン市から三百キロ南下したパラゴミナス郡で開拓生活を送った。そのころ、お世話になったトメアスーとベレン在住の農大の諸先輩に、ついに三十五年ぶりで会うことができた。
 水曜日、夜の練習が終わってから、加賀根良介君(七五年卒)のレストランに着いたとき、もう十数名の先輩が集まっており、相当メートルの上がっている人もいた。懐かしい再会。三十五年の歳月は先輩たちを老いさせたが、老樹は根を下ろすようにしっかりと、アマゾンに生き続けている。
 ……と、三年間で開拓地を去った私が尊敬の眼で一人ひとりを見ていると、突然、「馬鹿野郎、黙っていないでアイサツをしねえか」と怒鳴る人がいる。見れば、トメアスーのケンカ男・木村弘三先輩(五七年卒)である。この人のいるところ、ケンカが絶えないのである。私はすぐに〃迷短歌〃をひねり、それに応じた。「アマゾンに島国根性も根を下ろしハゲシラガ合唱している恋の唄」。これで彼は静かになる。無手勝流である。
 しかしながら、先輩たちと話していると「今、ブラジリアにいるのか」とか、「日本から来たのか」と聞かれるのである。「新聞見ないのですか」と聞くと、「あまり見ない」と言う。
 会が終わるとき、一同起立して、農大応援歌「東京農大大挙して末は南米の露と消ゆ―」を歌った。気が付くと、木村先輩は私に抱き着いたまま離れない。静かに彼は泣いていたのである。
 次の木曜日は、岩船先輩に連れられて、御守氏のレストランで行われた拓大同窓会に出席した。出席者たちはみんな非常に紳士であり、酒癖の良い?人ばかりなので、安心して飲むことができた。馬賊の唄―拓大校歌を聞いて無事終了した。
 七月二十一日、ベレンを去る日の朝、山中正二先輩(六〇年卒)に案内されて、市内にある前田光世の墓参に向かった。明治時代に渡米、大正三年にベレン市に移り住み、昭和十六年に亡くなるまで、日本移民と講道館柔道のために働いた人だ。昭和六年ごろ、友人に宛てた長文の書簡がある。その要旨は「アマゾニアは気候は過ごし易く、豊かな自然に恵まれた広大は地域であり、日本民族発展の地はまさにこのアマゾニアである。出稼ぎ根性で来ても発展はなく、排日の種を播くばかりであるから、青年男女のアマゾン進出を希む。講道館に自分の得た広大な土地の内、一万町歩を寄贈するので、それを講道館の維持運営に使っていただきたい。嘉納先生万歳」。前田光世は、日本移民史上、柔道史上に輝く巨星である。
 墓は、事務所のすぐ後ろにあった。強烈な日射の下、夏草が茂る墓地に前田光世の童顔がほほえんでいるのを発見したとき、われわれは一瞬深い感動に打たれた。まさに強者の夢のあとだった。メイ夫人と養女も亡くなり、前田家は絶えた。だが、その業績は不滅である。
 岩船先生は、労務者に清掃させたあと献花、われわれは深い敬愛の念をもって参拝させていただいた。なにか立ち去りがたい感銘を味わいつつ、墓地をあとにした。
 山中氏のレストランで山のようなカニをごちそうになり、柔道場に行き、別れのあいさつをした。空港ではカスタニアルの黒田老猿夫妻が熱帯のフルッタを持って待っていた。パウロ君と強く肩をたたき合ってから、われわれは機上の人となった。岩船先生は「大河を見て、トメアスーに渡り、前田光世の墓参りもできた。もう思い残すことはない」と静かに言った。私も同じ思いだった。昼食時の強いピンガのせいか、大河は揺れて見えた。

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