ホーム | 日系社会ニュース | 渡米の日系人支え続け30年 ロス、息づく「引退者ホーム」

渡米の日系人支え続け30年 ロス、息づく「引退者ホーム」

6月25日(金)

  【産経新聞二十一日】「異国での生活を切り開いた一世に老後の安心を提供し、後の世代が憂いなくビジネスに挑戦できるように」。そんな熱い思いで米ロサンゼルスに誕生した「敬老引退者ホーム」が来年、創立三十周年を迎える。「日系人のための高齢者施設」という目的を貫き〃故郷〃を思い起こさせる施設は、全米最大の日系人社会で不可欠の存在。日系人の高齢化が進む中、役割はますます大きくなっている。
 「春高楼の花の宴…」。ホームの一室から『荒城の月』のメロディーが聞こえてきた。入居者の女性二人がオルガンの伴奏に合わせてコーラスの練習をしているところだった。月間行事のほか、体操や民謡、日本舞踊、ダンス、ピアノ、裁縫、カラオケ、ゲートボールなどのクラスがある。コンピューター教室では多くの高齢者がパソコンに挑戦。クラスで作った作品をバザーで販売する楽しみもある。
 昨年秋に入所し、裁縫クラスのリーダーを務める志藤ふみ子さん(七五)は「周りが同じ日系人なので溶け込みやすく、生活にすっかりなじんで最高です」と話す。
 ■子供に戻って
 「年をとると子供のころに食べた味が恋しくなるから、日本食中心の献立にほっとすると思います。それに、生まれ育った文化の背景ですね」と看護部長のサチコ・ワードさん。
 同ホームには、一人で生活できる百三十人と、医療ケアや身の回りの世話が必要な九十人が入所中。米国生まれで第二次大戦前に日本に戻り、戦後米国に帰ってきた「帰米二世」が四〇%▽米国で生まれ育った二世が三〇%▽戦後、移住してきた「新一世」が三〇%だ。
 現役時代は米国流の生活に不自由しなくても、新一世や帰米二世には日本語や日本の生活に対する安心感がある。二世でも、生活様式は日本式で育った人は多く、ホームの環境に心地良さを感じるという。サチコさんによれば、施設に入ることに抵抗を感じていた多くの人が「もっと早くここに来ればよかった」と打ち明けるという。
 ■奉仕でサポート
 ホームの運営を支えているのが、職員のほか常時百二十人以上いるボランティア。学生や主婦らがさまざまな教室の講師を務め、野外活動を手伝う。美容室も休日を利用して美容師がボランティアで詰めており、日系企業が食事や日用品を提供している。
 運営母体の社会福祉法人「敬老シニア・ヘルスケア」の妙中俊彦理事は「まさに日系コミュニティー挙げてのバックアップです」と言う。
 ■厳しい運営環境
 入所者の平均年齢は八十四歳で、二、三百人が入所待ちの状態。評判を聞きつけて日本から入所を希望する人もいるが、運営は楽ではない。
 「日系人のための施設」という前提のため、行政からの補助は受けられない。受ければ入所者の人種構成などで制約を受けるからだ。入所費(月千五百-三千ドル)と寄付金が運営資金だが、保険が適用されない医療ケアも多く、毎年巨額の赤字が出ている。妙中さんは「米国以外の日系社会のほか、中国や韓国系コミュニティーからもモデルケースとして関心が高い。日本の皆さんにも存在意義を理解いただき、支援の手を差し伸べていただきたい」と訴えている。

image_print