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広島神楽=絢爛世界で魅了保存会の若者らサンパウロ市公演文化伝承し=ルーツ確認

4月5日(火)

 太鼓や手打鉦、笛の囃子に姫が舞い、大蛇が火を噴く。サンバの国で神楽が舞った――。ブラジル日本文化協会大講堂(二日)、サンパウロ市立文化センター(三日)で行なわれたブラジル広島神楽保存会(細川晃央会長)の熱演に観客は大きな拍手を送った。日本文化継承が盛んなサンパウロでも、県の伝統芸能が紹介されるのは珍しいといえる。一度は活動休止状態となっていた同会だが、若者を中心にまた盛りあがりを見せそうだ。
 同保存会が発足したのは六九年のこと。細川会長の父親がブラジル訪問した際、お土産に持参したのが神楽面だった。
 県人が集まった歓迎会の席で酒の力も手伝ってか、茶碗、皿を叩いて神楽を舞った。その場で保存会結成が決まった。
 一時は年に二十数回の公演をこなすほど活発だった保存会の活動も、会員の逝去や高齢化で休止状態に。
 郷土の伝統文化を絶やすまいと昨年、県人会で説明会を開き、参加者を募った。興味を持った若者たちを中心に、女性十二人を含む三十七人が集まった。
 二人の指導員が広島から来伯したのは先月十五日。安芸太田町津浪神楽団の団長を務める末田健治さんと尾坂秋三さんだ。
 母県から指導者を――。広島を訪れた細川さんは県庁国際交流室を通して、安芸太田町加計支所の産業観光課長でもある末田さんに連絡、尾坂さんが町立加計中学校時代の同級生だったことも手伝った。
 同保存会が取り組んでいる神楽は、島根県石見地方に伝わっているもの。大太鼓、小太鼓、手打鉦、笛で構成される囃子、金糸、銀糸で刺繍された豪華な衣装とテンポの速い舞い方がその特徴だ。
 最初の演目、「塵倫」では、その豪華な衣装自体が見せ場だ。塵倫(翼を持った悪鬼)と弓を持った仲哀天皇の戦い。派手な動きの度に舞いあがる絢爛な衣装が演者を実際よりも大きく見せる。
「八岐の大蛇」では能面をかぶり、立ち尽くす姫の姿と舞台狭しとうねる大蛇が対照的だ。火を噴く大蛇の目が光る。暗くなった会場に静かな驚嘆が広がった。
 「衣装がとても綺麗。大蛇の動きも本物みたい」と会場を訪れたアンドレア・オリヴェイラさん。
 稲田姫を演じた落久保エリカさんは神楽を始めた理由を、「自分たちのルーツになっている文化を知るのは重要だと思う」と話す。
 「バンドでドラムをしていたので、和太鼓に興味があった」と入会のきっかけを話す伊勢島エリックさんは、「八岐の大蛇」の大蛇役を務める。誰も手を上げなかった笛の練習も始めた。
 四日に帰国した末田さんは、「三週間前に来た時はどうなるかなと思ったけど、みんなやる気があるから、吸収も早い」と相好を崩した。
 短期間の練習で神楽継承に取り組んだメンバーたち。公演後に見せた笑顔がその明るい将来を予感させた。

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