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記者の眼=谷伸び悩み、上原に勢い

4月19日(火)

■投票結果をどう読むか■
 七十一表差をどう見るか。谷派八百四票と上原派七百三十三票の差だ。選挙後、上原氏は「こんなにたくさん票が入るとは思いませんでした」と繰り返し、喜んだ。一言で言えば、上り調子の上原陣営に、伸び悩みの谷陣営か。
 上原陣営内では、谷氏が一発勝利を決めるという筋書きが、かなりの信憑性を持って語られていた。それゆえに現執行部は、最後まで高等審議会の谷氏説得にこだわったようだ。
 なぜ、事前に四百票と言われていた上原票が七百票と二倍近く伸びたのか。「積極的な上原支持」というよりは、コロニアの持つ保守的な傾向が「現体制支持」という形で三百票以上の上乗せとなったのでは、との声を聞く。現体制ゆえの上乗せ分が予想以上に多かった、との分析だ。
 逆に、谷派は用意した委任状七百票プラス、百人程度しか当日票が入らなかったのは誤算だった。決起集会で二百五十人が集り、その後の盛り上がりようを考え合わせれば、九百は固いと踏んでいた節がある。
 総投票数が千八百弱だと分かった時、過半数は九百票と分かり、谷陣営の中では、一発勝利への期待が強まっていただろう。
 下馬評では、もっぱら優勢と言われて谷陣営だけに、「もう勝った」という慢心が生まれ、入るはずの票を減らした可能性がある。最多得票だったにも拘わらず、逆に、谷陣営は〃敗北感〃を感じたのではないか。
 逆に、存在感を明瞭に際立たせたのは下本陣営だ。彼の持つ二百四十四票の重みがずっしり、両陣営には感じられるだろう。ある意味、下本氏がどちらにつくかで大勢が決まる。水面下での交渉は、激しさを増すに違いない。
 下本陣営のある幹部は、上原陣営とはすでに統一シャッパを組むかどうかで、シャッパ提出前に十時間話し合ったが、合意に至らなかった点を強調し、谷陣営と組むかどうかは「条件次第だ」と言った。
 現在の図式が、今後どのように展開するのか。二週間後、フタを開けるまで分からない。開票後、渡部和夫氏と下本氏が肩を抱き合い、携帯電話の番号を交換していたのもこれからの票の行方を如実に暗示していた。
 しかし、肝に銘じたいのは、これは〃政治ゲーム〃ではない点だ。
 今回、文協への関心が高まった――との話もあるが、年に一度の大事な文協定期総会(大講堂)の場にいたのは、たかだか六十人余りだった。昨年の百六十人と比べても寂しすぎる人数だ。
 昨年の事業報告や、今年の事業や予算の審議が行われた総会に、その程度の人間がしか来ないのは、本当の意味で「文協」への関心が高まっているのではなく、「文協の選挙」への関心だからではないか。
 選挙当日の文協には、今までにない輝きがあった。一世、二世関係なく、みなが生き生きとしていたという印象を受けた。この勢いを削がず、分裂させることなく百年祭へ向けること、それこそが本当の課題ではないか。

■本当の争点とは■
 今回の文協会長選挙の実質的な争点は百周年だった、と言ってもいいのではないか。特に、ヴィラ・レオポルジーナの日伯総合センター計画に関しての意見の違いが、文協初の対抗シャッパを生んだと言っても過言ではない。
 その意味で、判断は下されたといってもいい。センター反対派の谷・下本両派を足せば千四十八票となり、上原陣営の得票は遠く及ばない。
 この結果をどう解釈するかとの本紙の問いに、上原氏は「まあ、とくかくケンカもなく無事に選挙が終わって良かったです」と繰り返し、お茶を濁した。
 ヴィラ・レオポルジーナ案に関して賛否を問う、実質的なアンケート調査となったこの選挙だが、上原氏は相変わらず結果を直視したくないようだ。
 このような結果がでても、「若者は支持してくれている」と都合のいい部分だけを解釈する傾向は変わらない。口では「みんなの話を聞いている」「何百人ものチームでやっている」などと老練さをみせる。
 三十日の百周年祭典協会総会で、何を提案するのかとの問いには、ヴィラ・レオポルジーナ案一時凍結とコロニアの世論調査という従来の姿勢を崩さず、「レオポルジーナ反対案が総会に出され、可決されたら、それでお終いですから」とつけ加えた。
 あくまでヴィラ・レオポルジーナ案を推し通すこの自信は、選挙結果と無縁ではないだろう。
 下本候補は九日の立会演説会で、「ヴィラ・レオポルジーナはやらない」とする提案を三十日の百周年祭典協会総会に出すというと公言したが、どうするか。
 また午前中に百周年総会、午後から決選投票という順序はどう情勢を左右するのか、見えないところだ。

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