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戦後のブラジル移民題材=長編小説『パウリスタの風』=宇治市の市民文学賞受ける

2005年9月22日(木)

 第二次大戦後のブラジル移民を題材に国際テロや政治的陰謀などを取り入れた社会派ミステリー長編小説『パウリスタの風』が十三日、京都府宇治市の選ぶ第十五回紫式部市民文化賞に輝いた。著者は「南米移住史を日本の教科書に」という運動を進めていることでも知られる同市在住の本庄豊さん(50)だ。
 中学の社会科教師を本職とする本庄さんは、〇三年八月に初来伯、約一週間滞在し、学校で日本人ブラジル移民・移住史を教えるための予備調査を行った。その成果を実際の授業に反映させるなど、教育現場で活発に活動してきた。
 昨年は社会科教師向けの専門誌『歴史地理教育』(歴史教育者協議会編)九月号で、特集記事「近現代史の中のブラジル移民・移住」を企画編集した。さらに、より広い人々にブラジル移民のことを知ってもらえるよう活動の場を広げ、長期休暇を利用して小説の執筆も進めてきた。
 本庄さんは小説という形式にした理由を、その方が「移民・移住史を人間くさい営みとして記述することが可能になると考えたからだ。小説化にあたっては、推理小説、冒険活劇小説などの手法をとりいれ、エンターテイメント性を高めるようこころがけた。小説にかぎらず、文章は読まれなければ意味をなさないからである」と説明する。
 同作品の主要な舞台は神戸のメリケン波止場、サントス市、サンパウロ市、リオ市、アリアンサ移住地など。日本人移住史に、一九三六年に南米を訪問した日本ペンクラブ初代会長島崎藤村の『巡禮』と、ヴァルガス政権下の近現代政治史を絡め、壮大なスケールで展開される社会派ミステリーだ。
 宇治市は、世界に誇る古典文学『源氏物語』に描かれた宇治十帖の主要な舞台として有名。その文化的伝統の継承発展を図り、市民の文化水準の向上に資するため、優れた文芸作品などに対し、この賞を贈っている。今回は応募作五十五点を籠谷眞知子京都女子大名誉教授ら選考委員七人が審査、「スケールが大きく十分楽しめるエンターテイメント」と評価された。
 本庄さんは本紙に次のような受賞のことばを寄せた。「〇八年六月は日本人ブラジル移民百周年という節目の年でもあり、『パウリスタの風』が在日コリアン、中国人につづく在日外国人の第三位を占める日系ブラジル人との共生をめざすとりくみの一助になればという強い思いもあります」。この小説は十一月に同市から冊子として出版される予定。
 日本側から積極的に運動を進める本庄さん。日伯教育関係者が手を取り合えば、「百周年までに教科書記述を」も夢ではないかもしれない。

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