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自分史目立った応募作=第36回コロニア文芸賞=受賞者2氏に聞く=小野寺さん=文芸好きは父譲り=野澤さん=満州の思い出淡々と

2005年10月22日(土)

 ブラジル日本文化協会が主催する第三十六回コロニア文芸賞(遠藤勇実行委員長)の受賞作の発表を受け、授賞式が二十七日午後七時半から、文協貴賓室で行われる。今年の受賞作品は、本紙ニッケイ歌壇の選者を務める小野寺郁子さん(74、愛知)の創作選集『ときおりの章』と、文芸賞には初応募という野澤今朝之(けさゆき)さん(73、長野)の、自分史『草原』。この二人に受賞の感想と作品について聞いた。

 今回の応募作品の内、応募規定を満たしていたものは十五作品。戦後移住五十周年記念誌やアチバイア文協五十周年誌などの記念誌の類もあった。
 遠藤実行委員長は「今年は自分史の応募が多く、小説や随筆などを書かなくても人生を振り返って残しておきたいという人の参加が増えている。また戦後移住者の応募も見られ、コロニア文芸界の今後にもつながりそうだ」と話す。
 随筆二十二編、短歌百七十八首、翻訳二編、小説三編からなる『ときおりの章』は、昨年小野寺さんが初めて刊行した本。「日本に行くためにお金を貯めていたけれど夫が病気で行くことができなくなり、その分を出版にあてました」と話す。
 小野寺さんが文学に興味を持ったのは謡曲もやっていた父の血を継いだようだ。収録作品の中で、「移民の行李の底にさまざまな古典文学書を入れて来た人でもある。今日のわたしは、幾分かその影響を受けているようである」という一節がある。
 「清水夕子」というペンネームを持つ小野寺さんだが、作品の中でも使うときと使わないときがある。「謡曲は父の後を継ぐ形で始めたので旧姓の『清水』をとったんです。小説でもペンネームを使いますが、短歌や随筆では本名です。短歌は自分の感情をそのまま出さなくてはいけないのでそのほうが自然なんですね」。
 これまで随筆と小説は『コロニア詩文学』に四編投稿し、佳作や武本文学賞も受賞している。
 アリアンサ移住地で小間物屋を営んでいたときの日々のできごとや、息子の結婚などがテーマになっており、ほのぼのとした中にも移住者の視点が丁寧な言葉で綴られている。
 また、小野寺さんは準二世(一九三九年、九歳で来伯)であり、ポ語も堪能であることから翻訳にも挑戦、二編が収められた。
 受賞に関しては「大変ありがたいですね。最近は忙しくて書けない小説や随筆にもまた取り組みたいです」と話した。
 一方、自分史『草原』で受賞した野澤さんはコチア青年(一次十回、一九五七年来伯)。『草原』は幼い頃を過ごした北満州での厳しい開拓の生活や家族の死、日本へ引き上げてからも続いた戦後の不幸や、コチア青年として来伯してからの様子、出稼ぎ時代など激動の人生が素朴な言葉で淡々と書かれている。
 「やっとこうして気持ちを落ち着けて書けるくらいの時間が経ちました。人に読んでもらうには、あまりに自分の悲しみに浸ったままでは書けませんから」と野澤さんは執筆を振り返る。
 「コンピュータに向かって書くのも慣れないことでしたので大変でしたが、とにかくあったことに間違いのないように気をつけて書きました」。
 そもそも自分史は、これまでお世話になった人や知り合いにへの挨拶のつもりで作ったという。
 「形になったので、試しに出してみようかという感じで」と応募の動機を話す。「コロニア文芸賞の方でない人から『受賞されたそうで』と言われびっくりしました。本当なんですかね」。
     ◎
 二人とも生まれは日本であるが、戦前と戦後、一世と準二世という違いがあり、その経験が綴られた二作品が選ばれたのは興味深い。両作品とも自費出版で小部数しか発行していないため手に入れるのは難しいが、機会があれば一読を。

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