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ブラジルでも振り込め詐欺=被害者告白=気が動転して冷静な判断できず=「かわいい末っ子が交通事故」=「示談金がいる」目の前真っ暗

2006年1月7日(土)

 「気が動転してしまって、冷静な判断が出来なかった……」。肉親を装って家族に電話をかけ、金銭を騙し取る「振り込め詐欺」。日本国内だけでなく、ブラジルでも被害者が出ている。バウルーに居住するハタノ・ムネオさん(68、二世)、ヒデコさん(67、二世)夫妻が昨年半ばに、息子が事故を起こしたから示談金が必要だと電話を受け、六千レアルを詐取された。日系コロニアに注意を呼びかけたいと、このほど体験談を告白した。
 ハタノさんはデカセギで得た資金をもとに、仕出し店(従業員数=十数人)を経営。四人いる子供のうち、下の二人は日本で働いている。
 昨年半ばのこと。午後〇時三十分~午後一時ごろ、電話が鳴った。
 「ファビオ(末っ子)が、自動車事故を起こして相手の車を破損させました。修理費用をすぐに払わないと、刑務所にはいることになる。二万レアルが必要です」。
 相手は、息子の同居人の友人だと名乗った。ポルトガル語のアクセントから、日系人だと直観した。目の前が真っ暗になったヒデコさんは、「息子にけがは?」と聞くのが精一杯だった。
 「今一緒にいますが、軽傷なので大丈夫です」。その後、本人を装った男が電話口に出て「ママイ」と助けを求めた。「その声が本当に、子供にそっくりで……」とヒデコさん。気が動転しており、てっきりそう思い込んだという。
 犯人らは夫のムネオさんには、近隣のサン・マノエル市に示談金の授受に必要な書類を取りにいくよう、ヒデコさんにはバウルー市内の公園に現金を持参するように指示した。
 ムネオさんは息子が脳に障害を負ったのではないかと心配。受話器をとって、親戚の氏名を尋ねた。と同時に、電話が切られた。
 実は、ファビオさんは以前に従兄弟と住んでいたが、現在は一人暮らし。電話内容を詳しく吟味して電話をかけ直せば、被害は免れたかもしれない。それに何日か前に、親戚から振り込め詐欺があるから注意するように諭されたばかりだった。
 「我が子くらい、かわいいものはありませんから」。二人は犯人の言うままに動いた。ただ要求額を工面するのは無理だったため、交渉を重ね、最終的に八千レアルに落ち着いた。それでも結局、六千レアルしか用意出来なかった。
 自宅にはちょうど、カンポ・グランデから親戚が訪れていた。ヒデコさんが銀行にいって留守をしている間に、二十回近く電話がかかり、〃示談金〃を催促したという。
 午後二時すぎ。二人はそれぞれ、指定された場所に到着した。
 バウルー市内の公園には、六十歳前後の白人の男が待っていた。よれよれの衣服に身を包んで、サンダルを履いた、いかにも貧しい姿。ヒデコさんは新聞紙に包んだ現金を渡すと、男は中身を確認もせず、小走りに去っていった。
 一方、サン・マヌエルでは──。該当する住所は見当たらず、ムネオさんは近隣の住民に聞き回った。そこで、はっと気付いた。「やられた」。帰宅した時は既に、ヒデコさんが現金を渡した後だった。
 すぐにファビオさんに確認の電話を入れた。「何それ? 元気でやっているよ」。「……」。
 ハタノさん夫妻は、警察に持ち込んでも解決はできず、煩わしいだけだと思ってこれまで沈黙を保ってきたという。

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