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コラム 樹海

 パレスチナ人の若者が自爆テロを決行するまでの四十八時間をリアルに描いた問題作、映画『パラダイス・ナウ』(アブ・アサド監督)をみた。第二次大戦中の有名な「神風特攻隊」の青年パイロットたちも、戦地に向かう前夜はかくや、と思った▼父親がイスラエル軍の協力者(パレスチナの裏切り者)というレッテルを貼られた若者が、家族の名誉回復や、彼らなりの平和や平等を実現するために、近親にも言わずに自爆テロを決意する。主人公の若者二人が住むのは、イスラエル軍占領下ナブルスの難民キャンプ▼度重なる軍の侵攻で、ビルの大半は崩れかけている。ビデオ屋には、処刑される直前の裏切り者のコメントを撮影したビデオと、殉教者が自爆テロに向かう前の声明をとったビデオが並んで棚に置かれている。店主は貸し出しも販売もあると説明、「今なら特別に安くしとくよ」という台詞がリアル。何気ない日常が衝撃的だ▼自爆テロに向かうことを偶然知った片方の若者の恋人は、思いとどまらせようと説得――真っ向から食い違う平和論。爆発シーンどころか流血場面すらもほぼない。淡々とした描写が続くがテーマはじつに重い▼映画館を出てボーッとした頭のまま、家族連れやカップルがあふれる週末のパウリスタ大通りを歩いた。ふと、中東のテロで死ぬ人より、国内の殺人事件で殺される人数のほうが多いとの報道を思い出した。足元の現実も、相当残酷だ。手にもったソルベッテが急に苦くなった感じがした。 (深)

06/03/09

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