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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2006年8月11日付け

 以前、本紙でも紹介した『渡伯同胞送別の歌』を中平マリコさんが滞伯中のコンサートで歌った。最近、編集部に一宗教団体のコーラス部から「歌詞はありませんか」とていねいな問い合わせがあった。手元に保存してあったので、喜んでコピーして差し上げた▼同コーラス部のリーダーは二世。来る移民百年祭を機に、この歌を歌い継いでいけるように練習したいということだった。コーラス部のメンバー全員がおぼえたら、後世に残る確立はぐんと高くなるに違いない▼さて、この歌、意地悪く言えば、先祖たちが(移民送出会社の鼓舞に)騙された証拠となり得るものである。移住にあたり、歌詞を真に受けたとすれば、きっと「事実は違うじゃないか」と憤慨しているはずだ▼「南米の野は広々としていて、無限の富を蔵しながら、あなたを待っている」とか「万里果てない大陸には宝庫がある、あなたの成功の日は近い」といった宣伝文句を耳にしながら、渡航して来たのだ▼結果的に、いいところに来た、ブラジルこそ第二の故郷、養国だ、という人も少なくない。ただ、100パーセントに近い人たちは、あの歌詞とは違う、と何度も思ったことだろう。しかし、『―送別の歌』が「歌という文化遺産」であることは間違いない▼コーラスリーダーにメロディはありますか、と聞いたら、なんと「九十歳の私の母が知っているのです」とのこと。歌い継いでいこうとする熱心ぶりは、尋常ではないと思った。この歌は残るぞ、と確信した。(神)

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