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身近なアマゾン(3)――真の理解のために=ガリンペイロの鉄則=「集めたキンのことは人に話すな」

2006年9月26日付け

 □インデイオ部落に現れるガリンペイロと熱帯魚漁師(2)□
 筆者の日本人の友人にガリンペイロを十五年もやった猛者がいる。彼が、いろいろガリンポについて話した筆者との会話を紹介したい。
 産業開発青年隊の草分けで移住した人で、現在もカラグアタツーバに在住の友人である。
「ブトさん、ガリンポの面白い話きかせてよ。何でもいいから」
「それなら、質問だ。ガリンポにいた頃、愛読していた物、何だか分かるか?」
「そんなもの分からない。本ですか?もしかして鼻毛」
「ガリンポにいた頃はよ、文字なんでどこにもない。だから、いわしの缶詰があるだろ、あのラッタ(空き缶)の文字を毎晩読んでいるんだ。月に一回、商売物を積んだテコテコ(セスナ型小型機)がガリンポにやって来る。その間の一カ月の愛読書がイワシの缶詰のアキカンだ。分かるか。大抵最初の三日で暗証してしまうけどな」
「へー、ガリンポというのは凄い所なんだねー」
「もう一つ質問だ。ガリンポで一番恐ろしい物は何だか分かるか?」
「マラリアかな。それともオンサ(南米産の豹)かな」
「いいや違う。教えてやろうか、それは黒い髪の毛をした猿だ。猿が一番恐ろしい」
「何ですか、その黒い猿って」
 「二本足で歩く猿よ。ガリンペイロだよ。これが一番危ない。誰かが沢山金(キン)を見つけた、という噂が流れるとするな、すると、そのガリンペイロの仲間の誰かがコッソリ猿に変身するんだ。その猿が金を沢山当てたというガリンペイロを付け回すわけ。後を追いかけてストーカーになるんだな。こうなると殺すか殺されるかの一騎打ちだ。まだ白昼の一騎打ちに持ち込めれば良いが、大抵は追われる側が、樹の上から鉛弾を浴びせられて一巻の終わりなんだ」
「それならガリンポではどうやって生き残るんですか?」
「見つけたり、集めた金(キン)のことは絶対に他人に漏らさないこと、買い物なんかも必要最低限、ほんのちょっとの金で済ませることだ。貧乏な可哀想な奴だと思わせておくことだ。そうすれば決して狙われない。それが生き残る鉄則だね。どこのガリンポでも近くの町には必ず無縁墓地があって、わけの分からないうちに殺された奴らの墓がいっぱいある。こいつらみんな犬死にだ。仕返しもできないし、ガリンポには警察なんて無いから、殺され損ってわけさ」
「大変なところだね。山の中に一人で入って、自分で家建てて、掃除、洗濯、炊事、全部やるの?」
「アッタリ前よ!だから面白いんだ。しかし、この十五年のガリンペイロ生活で、六回もマラリアにかかった。よく生きていると思う、我ながら」。こんな会話の世界が、アマゾン地域には今でも方々にある。
 ブト氏、彼がガリンポの話をする時は、いつも言う。「クユクユというインディオ伝説があるんだ。哀しいなー」
 この〔クユクユ〕というのは、どうも私たち熱帯魚採り漁師のいう〔オキシドラス〕のことらしい。このオキシドラスという魚は、南米特産古代魚の一種で、ヨロイナマズの一種のようだ。たしかにこの魚の鰭を掴んで水から揚げると「クユクユ」と鳴く。そのため、この魚を総称して英語名を〔トーキング キャット フィッシュ〕と呼ぶ。
 プレコストムスという魚がいる。これは皮が堅いヨロイナマズなのに対して、オキシドラスは普通のナマズのようなヌメっとした肌だ。身体の側線に沿って大きなトゲが生えている種類で、口も吸い口のようにとがっている魚である。
 このクユクユ伝説の詳しいことは聞き逃したのだが、この話をする時のブトさんは、いい年した六十男でも、目に涙をためている。
〔クユクユの話。可哀想なのだろうな〕と思うが、ただ単に水から揚げた魚が悲しそうな音を出して、クユクユと鳴いているだけなのかもしれない。その涙の由来の話、謎ではあるが、なんだか良くわからない。つづく    (松栄孝)

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