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身近なアマゾン(22)――真の理解のために=ゴールドラッシュの終り=河川汚染もなくなった

2007年1月6日付け

□経済政策と自然保護の皮肉な関係(2)□
 さて、当時はそんな為替政策であったため、ガリンペイロの集めてくる金の値段もドル決済が基本だったので、金(きん)もドル紙幣同様に扱われていたわけだ。
 そういう時代を経て現政権になって、レアル・プランが発動されると同時に、一ドルが一レアルに統一され、平行ドルも政府の干渉するところとなり、公定レートと平行レートの差が三%程度に抑えられることとなって、この貨幣価値の幻想は終わりを告げた。筆者などは、そのインフレ時代を非常に懐かしい感覚で覚えている。
 ガリンペイロの金(きん)集めの原動力、いわゆるゴールドラッシュの最も重要な部分を占めていたこの為替マジックも、コーロル・プランの実施と共に、夜明けの露となって消えていった。その理由は、為替変動によるショックが主な原因だったのだが、当時のブラジル経済でもう一点その要因があった。
 それは、当時の物価の基本がもう一つ、ガソリン(燃料油)を中心にした、石油製品の価格でも指標がとれた。当時は、物価における石油の価格が重要な位置を占めていた。一グラムの金が約十二ドルという国際相場は、当時も現在も変わっていないのだが、端略的に考えると、一グラムの金で二十四ドル分の石油が買えたのだ。
 当時のブラジル物価の中でガソリンの値段はドルではなくて、対物価の評価から決められていたので、当時の価格は一リットル=二十セント程度で売られていた。すると一グラムの金イコール二十四ドルで百二十リットルのガソリンが買えていた。
 それがコーロル・プランを境に、一リットルが約一レアルに全国統一されたため、同じ一グラムの金で十二リットルしか買えなくなった。百二十リットル買えたガソリンが十分の一しか買えなくなってしまったのである。
 ということは、金の価値がブラジル国内でコーロル・プランを境に、十分の一になってしまった、ということだったのだ。
 以上のようなことの連続で、現政権になってブラジルのゴールドラッシュは終わりを告げた。アメリカ西部のゴールドラッシュに似た、このブラジルでの金ラッシュは終わったのである。その結果、このタパジョス川流域の金採掘も終わって、採掘に使われた水銀による河川の汚染もなくなっているのが現状だ。
 そうしたら、今度はブラジルの投資家階級は何を始めたか、というと、ガリンポで失業した超安価な労働力である失業ガリンペイロを利用して、未開の原始林を大掛かりに開発し始めた。リオやサンパウロなどの都市部で不足している材木を伐採販売し、切ってしまって有用樹のなくなった森を伐採して焼き畑をさせた。さら地にさせた所に牧草をまいて牧場という体裁にして、その払い下げ国有地に付加価値をつけて売り払う、という詐欺のような事業を方々で始めた。
    △
 この旅から十年近くたった〇六年十月、アマゾンに旅に出た。
 偶然のことからイタイトゥーバの町から数十キロ入った支流のガリンポ(黄金採掘地)にCUIU CUIU(クユクユ)というガリンポ部落があるのを知った。
 本稿当初の報告に武藤(ブト)さんという友人のガリンペイロ(金採集人)の言っていた「クユクユ、思いだした、悲しいなー」と言っていたことに思い至ったのだ。
「あー、これだ、これだったのか。クユクユの意味は」と思った。
 本人から確認はとっていないが、恐らくこのクユクユというガリンポで長年働いてきて、そこに彼の青春を残してきたのではないだろうか、沢山の友人をなくし、沢山の友達をその地に残してきた、というようなことを何かのおりに聞いた気がしていたのだ。
 アマゾンを旅していて「恐らく二度と訪れることが無いだろう」と思う土地がある。
 そこにはたった一度であっても、お世話になったり、心に残る人達がいて、その人達の顔が思いだされることがある。長い人生で先に逝った友人を思い出す感情に似ている。
 日本からの開拓移民でブラジルの奥地に入った経験のある人には,格別そういう思いがあるのだ、とブラジル奥地を旅して最近は考えている。つづく (松栄孝)

身近なアマゾン(1)――真の理解のために=20年間の自然増=6千万人はどこへ?=流入先の自然を汚染
身近なアマゾン(2)――真の理解のために=無垢なインディオ部落に=ガリンペイロが入れば…
身近なアマゾン(3)――真の理解のために=ガリンペイロの鉄則=「集めたキンのことは人に話すな」
身近なアマゾン(4)――真の理解のために=カブトムシ、夜の採集=手伝ってくれたインディオ
身近なアマゾン(5)――真の理解のために=先進地域の医療分野に貢献=略奪され恵まれぬインディオ
身近なアマゾン(6)――真の理解のために=元来マラリアはなかった=輝く清流に蚊生息できず
身近なアマゾン(7)――真の理解のために=インディオの種族滅びたら=言葉も自動的に消滅?
身近なアマゾン(8)――真の理解のために=同化拒むインディオも=未だ名に「ルイス」や「ロベルト」つけぬ
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