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身近なアマゾン(26)――真の理解のために=インディオの「月」の解釈=ネグロ川上流できく

2007年1月20日付け

 □空を見上げて月に想う[ネグロ川上流のインディオ部落にて](2)
 今回、イサナ川の山奥のインディオ部落で、サッペ小屋(ヤシの葉で屋根を編んだ小屋)でインディオの作ってくれた夕食を食べた後、涼しい川原の砂に座って、降ってくるような星を眺めつつ色々考えていた。そこに親しくなった人達がやって来て、色々話になった。むらさき色に近い青の夜空に、大きな月と落ちてきそうな星がランランと輝いている。
 そこで月の話になった。筆者は、日本では月に現れた模様が〔ウサギが餅をついている〕ように見えている、と言った。月に関する昔からの言い伝えについて、かぐや姫なんかの話を拙いポルトガル語で説明した。そのお返し、というのではないだろうが、彼らもいろいろ月にまつわる話を始めた。
 愉快なおじさんがいた。その人は、ここからまだ上流のベネズエラ領域で生まれて、十歳になった頃、川を下ってこのブラジルに流れて来た、というカボクロ(インディオと黒人の混血)。彼が話すには「あの、月に表れるあの絵、あれはこの地ではサン・ペドロという神様なんだ。そのサン・ペドロのおじさんがあそこで、一体何をしているか、分かりますか?」
 「分からないよ、日本人の私には分からない、良かったら話してよ」
 筆者の横に座って、彼が話し始めた。
「あの月の絵はね、サン・ペドロが、しゃがんで一生懸命地球にある砂の数を一つずつ数えているんです。砂の数なんか、いつまでたっても数えられないよね。そのサン・ペドロという神様はちょっと間が抜けている神様なのか、そんなところに時々悪魔がやって来て、サン・ペドロの耳元で囁くんです《この砂を数え終わったら地球に最後が来るから、早く数えなさい》と。盛んにそそのかすんです。しかし、サン・ペドロが手に持った器に一粒ずつその砂を数えていって、砂がいっぱいになりかけると、どこからか鳩が現れて、その器に体当たりをくれて、ひっくり返すんだよ。サン・ペドロは落ちた器を拾って、また砂を数え始める。そういうことを太古の昔から繰り返しているうちに、時間が経って、現在も地球が終わらないでいるらしいんです。今もこうして地球が終わらないでいるよね。ありがたいもんだ。だから、鳩は平和のシンボルと呼ばれているのかもしれないね。それからね、サン・ペドロが数えている砂は、砂ではなくて、死んだ人の数なのだ、という話もあるそうですよ。どうなんですかね」
 そんな話を聞いていて、あの編集長だった鈴木さんもサン・ペドロの数えている砂の一粒になってしまったんだ、と思って、改めて満月の夜空を見上げた。
 鈴木さんとは、とうとう会えずに終わってしまったのだ。大きな喪失感が残っている。つづく(松栄孝)

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