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身近なアマゾン(18)――真の理解のために=ピラニアよりも獰猛=サンフランシスコ川=悪食ピランベーバ

2006年12月16日付け

 □ピラニアより獰猛なピランベーバ(2)□
 しかし、それに反し、持ってこられたメニューには、肉料理、鶏料理、魚料理がワンサカと書かれている。本当だろうか、と思ってガルソン(給仕人)にメニューを見せて「この料理がどれでも出来るのか」と問うてみた。
「勿論、どれでも出来ます」と答えるので、案内人の紙屋君の顔を見て、「本当かね」と念を押すと、「松栄さん、あんまりこの地を馬鹿にしてはいけませんよ」と言われてしまった。
 彼が言うのは、ここ十年くらいで、食生活はサンパウロと変わらなくなった、とのこと。ただ、材料が地元で採れないものに関しては、サンパウロより値段が高くなるので、庶民はなかなかレストランに入れないのだそうだ。
 出されたご飯がちょっと違っていた。例えば、ブラジルのどの地方でもフェイジョンと呼ばれる塩煮の豆料理は、それ自体の煮物として出て来るのだが、ここではご飯と混ぜた状態で出てきた。ご飯は油と塩で煮てあり、それに小豆に似たフェイジョンという豆の塩煮が混ぜられているので、これは日本でいう赤飯のようだった。
 これを現地ではバイヨンと呼び、北ブラジルから東北ブラジルの食形態の中心になっている。油赤飯(バイヨン)にステーキと玉ねぎのサラダというけっこうな献立だったので、今までのこの地の筆者の食糧イメージが自分の中で消えてゆく気がしていた。あまり昔の偏見で物を言うものではない、と反省させられた出来事だった。
 さて、これから同行の友達が案内してくれる池に、ピラニアを上回る獰猛な悪食と言われるピランベーバ(PIRAMBEBA)の採集に出発する。
 日本でも恐らくピラニアという名前を知らない人はいない、と思うが、このノルデステ地方を流れるサンフランシスコ河水系には、そのピラニア以上に悪名を馳せたピランベーバがいる。そのピランベーバの解説をしておく。
 筆者には変な友人がいて、前述のガリンペイロのブトさん(武藤氏)もそうだが、もう一人猛者がいて、こちらは曽根さんといって、何を思ったのか、このノルデステ地方にやはり金銀宝石を採取に来て(彼も日本人ガリンペイロ)、この土地で四年間、金(キン)を探して放浪して、無理を重ねて栄養失調から鳥目になって二年程不自由していた。
 その曽根さんの、この地方でできた親友が、このピランベーバに足のすねの肉をえぐり取られて、ガッポリ穴があいてしまった、という話の魚だ。
 普通のアマゾン地方やラプラタ水系に生息しているピラニアは、健康な人間が水に入っていても、決して襲って来ない、しかし、このピランベーバは違う。どのような状態であっても、人間というか動物が水に入ると、その近所にコイツがいると、一直線に襲ってくる、というピラニア中のピラニアだ。
 誤解が生じるといけないので説明するが、ピラニアが人間を襲う場合の条件は、筆者が観察しているところでは二つある。
 (1)人間なり動物が溺れたり、溺れかかったりしていると、襲ってくることがある。この場合は、動物や人間が恐怖を感じると、その恐怖で何かホルモンまがいの匂いが出るのかもしれない。そのサインをキャッチすると、ピラニアが襲って来るのかもしれない。勿論怪我して、大量の血液が水にとけた場合も危ないようだ。
 (2)そしてもう一つの条件は、河や湖が減水して小さな池になっているところに取り残されたピラニアも興奮しているので危ない。しかし、このピランベーバという魚は、普通の状態でもTPOを考えることなく、やたらに襲ってくるという見上げた魚で、ピラニア属の魚でありながら、ピラニア以上に獰猛な魚なのだ。
 筆者の想像するところでは、このピランベーバといる魚は、学名をピラニア・ピラヤと呼ばれているサンフランシスコ川固有種の魚だろう。ピランベーバと呼ばれる魚、その学名の示す通り、ピラニア中のピラニアという意味に解釈するわけだ。つづく (松栄孝)

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