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身近なアマゾン(30)――真の理解のために=命を賭した移民の開拓のあと=説明できない悲哀が…

2007年2月22日付け

 □なくなってしまった自然(2)
 日本人の移住が始まった一九〇八年頃のサンパウロ州の奥地、パラナ州、マット・グロッソ州などの地域は、まだ原始林によって覆われていた、という記録や写真がある。その日本人の初期移民たちは、彼らの夢の実現のため、原始林に挑んだ。しかし、事前調査の不備や、予備知識の不足などで風土病や様々な障害によって多くの悲劇が起こったことは移民の悲劇として、現代日本人にも一般的に知られている。
 その時代から六十五年後、筆者が移住してきた一九七四年には、すでにサンパウロ州、パラナ州、マット・グロッソ州など、どこに行っても原始林は存在していなかった。ただ、この一九七〇年代まで、移民入植開拓のなかったパラグァイ国サイドのイグアスー地域のみには、その素晴らしい原始林が残っていた。
 その頃、筆者の入植予備知識として習ったのは、ブラジルで残っている太古からの自然はアマゾン湿地と海岸山脈地域とイグアスー地域の三地方のみとなってしまった、という話だった。
 事実、その頃訪れたイグアスー移住地で、樹高三十~五十メートル、樹の周囲が数メートルに及ぶ樹齢何百年何千年という樹木の鬱蒼とした原始林のジャングルの中で、舞い飛ぶチョウを採集した経験があって、ここの素晴らしい自然を筆者は満喫した思い出が昨日のようだ。
 そんな経験を経て、その後二十五年の歳月が過ぎて、昨年、日本から訪れた筆者の高校の恩師を案内して、久しぶりにこのイグアスーを訪れる幸運があった。
 〔イグアスー地域が開墾された〕という噂を知人から聞いてはいたのだが、イグアスーに到着して、ビックリ仰天、「あの素晴らしかった原始林がない!」のだ。
 世界遺産の滝の部分だけに少し、ほんの少し、ジャングルが残されていただけで、残りは一〇〇%といってよいくらいに伐採され尽くし、全体が大豆畑に変わっていたのだ。〔いつの間にかイグアスーの自然は終わったのだ〕と呟いてしまった。
 同時に、[この何万だか、何十万ヘクタールだかに及ぶ自然の中で暮らしていた動植物はどうなったんだろうか、全部灰に帰してしまったのか]と思った。
 恐らくこの原始林の中には、かなりの種類の未確認の動植物、昆虫、魚類がいただろうと想像できるのだが、それが開発と共に人知れず闇に消えていったのだろう。大豆やトウモロコシといった換金作物栽培の単一大栽培のために撒かれた化学肥料、農薬、除草剤などで、そこにいた生き物は全て排除されてしまったようだ。
 筆者は、この現実を眼前に見た時、説明できない悲哀を感じてしまった。移民とは一体何だったのだろうか、移住入植者一家の運命までも賭けて、開拓して、結果マラリアや未知の風土病の犠牲者まで多数出して、拓こうとした土地、その犠牲を払った土地が、どういう状況で現存しているのか、と考えると、開発という破壊に対する山のような矛盾が残こっている。人間なんて自分勝手なものですね。つづく (松栄孝)

身近なアマゾン(1)――真の理解のために=20年間の自然増=6千万人はどこへ?=流入先の自然を汚染
身近なアマゾン(2)――真の理解のために=無垢なインディオ部落に=ガリンペイロが入れば…
身近なアマゾン(3)――真の理解のために=ガリンペイロの鉄則=「集めたキンのことは人に話すな」
身近なアマゾン(4)――真の理解のために=カブトムシ、夜の採集=手伝ってくれたインディオ
身近なアマゾン(5)――真の理解のために=先進地域の医療分野に貢献=略奪され恵まれぬインディオ
身近なアマゾン(6)――真の理解のために=元来マラリアはなかった=輝く清流に蚊生息できず
身近なアマゾン(7)――真の理解のために=インディオの種族滅びたら=言葉も自動的に消滅?
身近なアマゾン(8)――真の理解のために=同化拒むインディオも=未だ名に「ルイス」や「ロベルト」つけぬ
身近なアマゾン(9)――真の理解のために=南米大陸の三寒四温=一日の中に〝四季〟が
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身近なアマゾン(13)――真の理解のために=クルゼイロ=アクレ州の小川で=狙う未知の魚は採れず
身近なアマゾン(14)――真の理解のために=散々だった夜の魚採集=「女装の麗人」に遭遇、逃げる
身近なアマゾン(15)――真の理解のために=眩しい町サンタレン=タパジョス川 不思議なほど透明
身近なアマゾン(16)――真の理解のために=私有地的に土地占有=貴重な鉱物資源確保目的で
身近なアマゾン(17)――真の理解のために=近年気候変異激しく=東北地方、雨季の季節に誤差
身近なアマゾン(18)――真の理解のために=ピラニアよりも獰猛=サンフランシスコ川=悪食ピランベーバ

身近なアマゾン(19)――真の理解のために=異臭発しても観賞魚=円盤型、その名の意味は?
身近なアマゾン(20)――真の理解のために=ディスカスの自衛方法=筆者の仮説=「あの異臭ではないか」
身近なアマゾン(21)――真の理解のために=タパジョス川の上流に=今は少ない秘境地帯
身近なアマゾン(22)――真の理解のために=ゴールドラッシュの終り=河川汚染もなくなった
身近なアマゾン(23)――真の理解のために=環境破壊を防ぐ行動=国際世論の高まりのなかで
身近なアマゾン(24)――真の理解のために=乱開発された土地に大豆=栽培の競合もつづく
身近なアマゾン(25)――真の理解のために=コロンビアとの国境近くで=知人の訃報をきく悲哀
身近なアマゾン(26)――真の理解のために=インディオの「月」の解釈=ネグロ川上流できく
身近なアマゾン(27)=真の理解のために=肥沃な土地であるがゆえに=自給自足生活が営める
身近なアマゾン(28)――真の理解のために=モンテ・アレグレの壁画から=古代日本人の移住を思う
身近なアマゾン(29)――真の理解のために=人間に知られないまま絶滅=そんな生物も多かった?
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