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コラム 樹海

2006年12月21日付け

 サンパウロ市の風光明媚な海岸で愛を語らう恋人たち─と聞いて違和感をおぼえる人は多いはず。当たり前だ、サンパウロ市に海岸はない。ところが、ブラジルを描いたハリウッド映画には平気でそのようなシーンが描かれているという▼これは『Olhar Estrangeiro』という現在公開中のドキュメンタリー映画を見てしった。この作品は、ブラジルを舞台にした外国映画における偏見をテーマにし、監督や俳優に直接インタビューしてその無知ぶりを白日の下に晒している快作だ▼ブラジルを舞台にした外国映画は少なくとも二百本を数え、うち四十本では犯人が逃げ込む地として描かれているとか。そういえば一九七九年、保険金目的の連続殺人事件の日本人容疑者がブラジルに逃げ込み、パラー州奥地で射殺された事件もあった▼某北米映画では、リオの海岸にいる乙女たちはみんなトップレス(胸を見せた状態)で歩き回り、外国人男性に情熱的な視線を送っているように描かれていた▼ブラジル映画の女性監督はこの場面に特に怒りを覚えたらしく、数人に糾弾するシーンがある。「リオではトップレスは法律で禁止されていることを知らないのか?」と詰め寄る。すると、ブラジルに足を踏み入れたことすらない映画製作者は「あれはイメージの中のリオだ」と言い逃れる。でも、全世界の観客はそれを真実のリオに重ねる。そうして、アメリカの偏見が世界に伝播する▼翻って日本ではどうか。そういえば、ベストセラー小説『OUT(アウト)』(九七年、桐野夏生著)でも、死体をバラバラにした主人公がブラジルへの逃亡を匂わすシーンで終わっていた。やっぱり日本も…。(深)

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