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新手の盗み=文協ビル界隈=下車させて油断つく=盗難後もたたる=小切手、個人情報など

2007年3月15日付け

 「文協ビル界隈を通行する人は特に用心してほしい」――。移民百周年を来年に控え、治安改善が望まれるサンパウロ市リベルーダデ地区。去る二月十六日午後二時ごろ、船渡川譲さん(64、サンパウロ)が、二人組の男性に巧みな手口で盗みに遭う事件にあった。被害は、外国人証明書など各身分証明書や二十ドルの現金。一連の経緯を報告するため、九日に来社した船渡川さんは「三十六年間ブラジルに住んでいるが、こんなことはじめて」と厳しい顔で事件を振り返った。
 事件が起こったのは文協ビル近くのガルボン・ブエノ街。船渡川さんが買い物に出ていた妻の帰り待つため、同街に車をとめていたときだった。
 妻の帰りがそろそろだと思った船渡川さんは、運転席に座って待っていた。すると、ボリビア人の顔に似た男性(船渡川さんの話)が近づき「車の後ろに何かがある」といった様子で、執拗にジェスチャーを送ってくるのに気が付いた。
 「怪しいと思って相手にしなかったんですが、あまりにうるさいので仕方なく車の外に出たんです」。
 船渡川さんは短時間だと思い、ドアにカギをかけなかった。そして車の後ろに行き、この男に話しかけたところ、男は手に持っていたカギをわざと地面に落とした。「それで注意がそらされたんですよ」。
 船渡川さんの注意がカギに向いた瞬間、突然、ちがう一人の男が現れ、車のドアを開けて運転席の下に置いていた船渡川さんのバッグを奪い全力で逃走。それに気づいた船渡川さんはバッグを取り返そうと思い、犯人を追いかけたが間に合わなかった。
 被害は、登記所に行くためたまたまバッグに入れていた外国人証明書(RNE)、納税証明書(CPF)、小切手帳、日本の銀行カード、日本とブラジルの運転免許証、二十ドルほどの現金など。個人情報が記載されたものばかりだった。
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 話はこれで終わらなかった――。続いて十七日午前二時ごろ、静まりかえった自宅で電話が鳴った。「あなたのドクメント(書類)を拾ったんだ」と切り出す男の声が聞こえてきた。
 ジェフェルソンと名乗るこの男、サンパウロ市ルス駅近くのプリンセーザ・イザベル広場の公衆電話から電話をかけているという。コレクトコールだった。「書類を取りに広場へきてほしい」と要求してきた。
 これに対し船渡川さんは「今の時間は無理だから、あす午前九時半ごろにしてほしい」と言うと、男は「もう一回電話する」と言って電話を切った。
 夜が明けて船渡川さんは娘と一緒に同広場管轄の警察署に行き、電話の内容を説明。そして、私服に着替えた警察官四人と一緒に、それぞれグループに分かれて広場へ向かった。
 ここで電話をかけた男を知っているという浮浪者に出会ったが、結局、男が姿を現すことはなかった。「もしかしたらこの浮浪者が感づいてジェフェルソンに危険を知らしたのかもしれない」。同行した警察官はそう説明した。
 その後、男からの電話はなかったが、今月になって、船渡川さんが銀行を訪れた際、盗まれた小切手で、何者かに六回にわたって約六百レアルが引き出されていることがわかった。
 船渡川さんはサンパウロ市カランジルー駅近くのサンパウロ州組織犯罪捜査課(Deic)で犯人グループの似顔絵を作成してもらった。担当の係は「犯人は一度味を占めたら同様な手口をする可能性が高いので注意するように」と話していたという。
 船渡川さんは、一連の事情を説明したあと、「ほんとショックだったよ。私と同じ被害にあわないように文協近くを訪れる人には、十分気をつけて欲しい」。そう力をこめて語った。

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