ホーム | 日系社会ニュース | 先駆移民に敬意を表して=「ブラジル人精神世界に届けたい」=神戸港からサントス港へ=日系三世、マリンジェットの〃旅〃=来年、移民100周年を記念=行程洋上約4万5千キロ

先駆移民に敬意を表して=「ブラジル人精神世界に届けたい」=神戸港からサントス港へ=日系三世、マリンジェットの〃旅〃=来年、移民100周年を記念=行程洋上約4万5千キロ

ニッケイ新聞 2007年9月13日付け

 「多くの日本人の夢と希望を乗せた移民船がサントスに辿り着いてから百年。そして移民の思いを乗せて再びサントス港を目指す男」――。移民百周年を記念して、数々の移民船を送り出した神戸港からブラジルのサントス港までを、単身、マリンジェットで到達しようとする在日日系ブラジル人がいる。冒険家のマホエ・セルジオさん(40、三世、サンパウロ市出身、愛知県在住)だ。来年四月ごろに神戸港を出発し、同年十月から年末にかけてサントス港を目指すプロジェクトで、総距離は四万五千キロにも及ぶ壮大な冒険。「笠戸丸に命を託した七百八十一人、後に海外最大の日系社会を築き上げることになるパイオニアたちに敬意を表し、その進取の気性と気概をよみがえらせたい」と、ひときわ〃熱い〃気持ちで百周年を盛り上げようとしている。
 マホエさんは自身のホームページで、「(ブラジルに移住した)先人への(中略)言葉では言い尽くせないこの感謝の念。それを歴史的な移民百周年の年に日系ブラジル人を代表し、ひとつの『冒険』という形で表現することを決意しました」と動機を語る。
 「センチュリージャーニー」と名づけられたこの冒険。〇六年から計画し、旅につかうマリンジェット(ヤマハ製)は、百年前の笠戸丸の精神をひきつぐという決意を表すために『笠戸100号』と命名された。
 旅程では来年四月ごろに神戸港を出発、北上してロシア、アラスカ、カナダに向かう。その後アメリカ、メキシコ、グァテマラ、エルサルバドール、コスタリカ、パナマ、コロンビア、ベネズエラ、トリニード・トバゴ、ギアナ、ブラジルと南下する。十三カ国、約四万五千キロの行程だ。
 「六カ月ほどでサントスに到着する予定ですが、基本的には天気が悪いときなどには、運航しない予定でいますので、到着日ははっきりとわかりません」とマホエさんは説明する。
 また今回の冒険では総額三千万円の経費がかかる。水上バイク、機材、保険、緊急時の対策費などを含めての額だ。「燃料費だけで五百万」とマホエさん。現在スポンサー企業との打ち合わせを詰めており、「資金面では大丈夫」という。
 マホエさんはこれまでにも、〇二年の日韓ワールドカップ開催にあわせて、ブラジルへバイクで帰郷する旅を達成している。このときにはタリバン政権崩壊直後のアフガニスタンをはじめ、アフリカなど二十八カ国を走破し、翌年一月、サンパウロ市にゴールした。
 九一年にデカセギとして訪日後、大手自動車会社や電気会社などの派遣社員として働いた。これまでTBS系列の番組、「ここがヘンだよ日本人」にも出演したほか、NHKやフジテレビの番組でポルトガル語翻訳を手かげたこともある。
 「無謀と思われる旅であるからこそ、多くの方々の支援に応えるべく、無事目的を達成して生還する責任がある」とマホエさん。同ホームページには洋上で遭難した際の対策として、「衛星による遭難信号、VHF無線電話装置、一般の携帯電話では電波の届かない海上でもつながる衛星電話も装備して出発する」とある。万一に備え万全な救難対策を整えるようだ。
 旅の目的の一つは「ブラジリアン・スピリットを世界に届けること」。その旅を成功させた後には、「日本とブラジルを、互いにとってもっと身近な存在にしたい」と、日本で暮らすブラジル籍の子どもたちに旅の体験を語ることも考えている。
 マホエさんは「人生も一つの旅。旅の途中では、誰しも困難に遭遇する。しかし、自らの意思で目的を定め、計画、準備を行い、達成する。そんな生き方を移民の子孫の一人として、日本で暮らす若者たちに知ってほしい。今回は単なる冒険でなく祖先たちが築いた過去への敬意、そして未来を担う子どもたちへのメッセージ」と語っている。

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