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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年2月12日付け

 「劇団1980」が移民100年を記念し「ええじゃないか」をブラジルの各地で友好親善の公演をする。今村昌平監督が映画化した名作を劇に移したものだそうだが、桃井かおりや今泉しげる、緒方拳などが演じたものを芝居の舞台でいかに生かすかに興味が沸く。演出が前衛的な演劇で知られる在日の韓国人・金守珍氏というのも、「どんな芝居か」と演劇フアンの胸は躍る▼サンパウロには唐十郎が率いる劇団がきたことがあり、清川虹子が出演し話題になったし、前衛的なものに対しての関心はかなり高いのではないか。勿論、猥雑さを指摘する古典派もいっぱいいたけれども、革新組も多いのである。さて―「1980」の「ええじゃないか」は、幕末の慶応3年から4年に起こった庶民らの大衆運動を背景にしたストーリイを展開するものだが、江戸時代には―これとそっくり似た「お伊勢参り」がいくつもあった▼明和8年の「お陰参り」には300万人から400万人が伊勢神宮に殺到した。ときは1771年であり、あの田沼意次が老中格になった頃である。この人数を今の感覚で捉えてはいけない。記録によると、徳川吉宗が将軍になった享保時代の日本の人口は2200万人だから400万人の庶民は凄い▼慶応の「ええじゃないか」は幕末の志士が伊勢神宮のお札を撒いたのが始まりとする説があり、大店で働く人々などが愛知県の豊岡に始まり畿内と四国や江戸でも「ええじゃいか」と民衆の力の輪を広げてゆく。志士らには倒幕の狙いがあったろうし、あの時代の庶民らの苦楽を「1980」がいかにどう演じるか―である。(遯)

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