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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年5月1日付け

 誰かが嘘をついている――そう思わざるを得ない。鋳造を終えていた百周年記念硬貨のデザインが急きょ変更になった件だ。日本政府にとって前代未聞の出来事と言っていい▼関係者は「制作者から四百万ドルを要求されて交渉がまとまらなかった」といい、肝腎の彫刻家は「お金なんて要求していない」と真っ向から言い分が異なる▼ミステリーと思っている出来事は、えてして単純な筋書きのどこか一部分が意図的に隠されているだけの場合がある。外から見ると辻褄が合わず、どこか謎めいて見える▼彫刻家の弁護士と交渉にあたった日系弁護士らは、今年に入ってから数回話し合ったことを認めている。「お金はいらない。自分の名前をもっと出して欲しい」という彫刻家の主張が本当なら、とっくに硬貨への使用同意サインが交わされていただろう▼だとしても県連が昨年、財務省とデザインの使用契約書を交わした段階で、著作権が彫刻家に属するという認識がなく、彼女から同意サインを取らなかったことは初歩的なミスだ▼サントス移民碑を作った時の県連会長の網野弥太郎氏も「我々がアイデアを公募した。選ばれた本永群起さんのデザインは夫婦だったので、建設委員会が子供を増やした。彼女はその通りに作っただけなのに…」という▼だが、制作者に著作権があると世間では認識されているから、今回の事態になった。その時に県連との間で著作権に関する契約書が交わされていたらまったく別の話だ。まだ灰色の部分が多く、どこに責任があるのか明確にしにくい。だが、今回の失敗を他山の石として、各団体は著作権問題を軽く見ないでほしい。(深)

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