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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年7月9日付け

 最近テレビ画像で「音楽って本当にいいもんだ」と、独りうなづいたシーンがあった。サントス港に海上自衛隊練習艦隊が着き、ブラジルの軍の音楽隊が埠頭に出張した折、期せずして演奏交流が行なわれたようだ▼そのシーンでは、艦隊吹奏音楽隊の一人の女性サキソホン奏者が、サンバの名曲「アクアレーラ・ド・ブラジル」を独奏していた。終わるやいなや、やはり楽器を携えていた兵士たちが満面笑みで、次々と手を差し出した▼タイトなスカートからすらりと伸びた脚。水をはじくような、制服姿が凛々(りり)しい女性隊員は、サンバを演奏しなくても、好感を持たれそうだった。それが、ブラジルの誇りともいうべき曲目を到着早々埠頭で取り上げた。兵士たちはいっぺんで何倍も好きになったことだろう▼艦隊の吹奏音楽隊は、寄港地の国の著名で人気のある曲目を選び、練習を積んでくるようだ。親善を目的として寄港するのだから当たり前のことだが、かしこまった演奏会場でなく、埠頭でざっくばらんに演奏交流を繰り広げるというのは、また格別に味なものだ▼それにしても音楽は、つい数分前まで未知の間同士の気持ちを通わせる。よく、戦時捕虜と収容先の住民が音楽を通じて「同じ人間だ」と確認しあったという話がある。実際、音楽の素養がない者でも、「それは確かにそうだろう」と理解できる▼移民百周年を盛んに祝っている時期に、あまり人に知られずにあった親善交流。テレビもいい画像をみせてくれた。(神)

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