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■記者の眼■帰ったらデカセギじゃない!?=与党支援策の隠れた一面

ニッケイ新聞 2009年3月26日付け

 〃日系人〃という身分を三十万円と引きかえにする人がどれだけいるのか――。
 今月十九日、自民、公明両党の新雇用対策プロジェクトチーム(座長・川崎二郎元厚生労働相)が緊急雇用対策をまとめ、麻生太郎首相に提出した。
 雇用調整助成金や職業訓練中の生活費支給などの各対策に加え、共同通信によれば、仕事がなく帰国を希望する日系人の帰国旅費援助として、「働いていた人は三十万円、家族は二十万円をそれぞれ支給する」とある。政府では同対策を、〇九年度補正予算案の柱とする方針という。
 自民党ホームページに掲載された同提言を見ると、外国人労働者対策として就職のための日本語研修、職業訓練の実施を挙げ、それとは別項で日系人に対する時限的な施策として、帰国支援金の支給、チャーター便の手当てを行なう、とある。
 しかし、それに続けて、それらの支援措置を受けて帰国したものについて「日系人の身分に基づく再入国は認めない」と記されていることは報じられていない。
 さらに、査証申請時に就労先を確認することの指導とあわせ、「今後の状況によっては、日系人の身分に基づく新たな入国管理のあり方について検討する」ともある。
 帰国支援は人道的措置であり、また、日本に残るブラジル人が生活保護を受給し続けた場合の行政負担を軽減するという現実的な方策と言える。
 しかし、そこに続く文言は全く別の次元のものだ。
 日系三世までの訪日就労を可能にした一九八九年の入管法改正から二十年。ここで日本に残る人、ブラジルに帰る人を〃ふるい〃にかけ、さらにデカセギ現象をもたらした入管法自体の改正まで視野に入れているようにも見える。
 今月五日には岐阜県で、帰国を希望する在住ブラジル人・家族の帰国費用を融資する制度が発表された。
 低利の五年返済、返済の焦げ付きは県側が補償するという同制度。が、岐阜新聞によれば、当初七百人程度と見られていた申し込みが、ふたを開けてみると百三十人ほどに留まっているという。
 帰伯しても仕事がない、子弟教育、借金などいろいろな人がいると思うが、予想を下回る申し込み数は在日ブラジル人自身がこうした社会の雰囲気を感じ取っていることの表れかもしれない。
 入管法改正以来、日系人に対して定住化を前提とした受け入れ体制はまったく講じられてこなかった。その中でもデカセギたちは就労を続けて日本の産業を底辺から支え、そして今、ようやく多文化共生が謳われるまでに定着してきたのではなかったか。
 それが経済危機となり、「雇用の調節弁」として不要になれば三十万円と引きかえに帰国を〃支援〃するというのは、あまりに虫が良すぎる考えだ。デカセギとその家族が日本で過ごしてきた十年、二十年という時間は、何かと引きかえにできるものではない。
 今日本各地でデモをしているブラジル人たちは、こうした考え方にこそデモで応じるべきだ。  (ま)

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