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山本喜誉司賞=農業一筋の4氏が栄誉=授賞式に180人が出席=梅干し普及、台湾出身=孫さんも

ニッケイ新聞 2009年12月1日付け

 【既報関連】ブラジル農業発展への貢献者を称える「第39回山本喜誉司賞」(文協主催)の授賞式が11月27日夜、サンパウロ市の文協貴賓室で開催され、家族や知人、日系団体関係者など180人あまりが訪れた。今年同賞を受けたのは、栽培、研究、組合などそれぞれの分野で農業の道一筋に歩んできた4氏。さらに今回は、台湾梅の栽培でコロニアに梅干をもたらした孫河福さん(81)に感謝状が贈られた。

 授賞式に先立ち選考委員会(高橋一水委員長)により会見が開かれ、4人の受賞者が出席した。
 ミナス州カルモ・ド・パラナイーバで35年間コーヒー栽培に携わってきた下坂匡さん(72、福島県)は56年に家族で移住。サンパウロ州ジャレスからカルモへ移り、セラードのコーヒーの品質向上とともに、自然環境保全型農業にも取り組んだ。
 65年以来日本や国内各地から計167人の研修生を受け入れ。日本文化普及や日伯交流にも尽力した点が評価された。
 「草も生えず、本当にコーヒーができるのか、という所から始まった」という下坂さん。石灰、鶏糞などで土地を改良、「コーヒーはそれまで、原始林の良い土地で『できる』ものだったが、セラードに入ってから『自分たちで作っていく』ものになった」と述べた。
 農業技師の徳永孝則さん(69、サンパウロ州フェルノン、父母は熊本、福岡出身)は、ピラシカーバ農大を卒業後、バーレ・ド・パライーバ地方のCATI(技術支援統括所)で米作や果樹栽培の指導に従事。その後サンベント・ド・サプカイアで、根腐れ病に抵抗性のあるアテモイアのトンプソン種の栽培に成功、「ジア・デ・カンポ」などを通じ普及と技術向上に尽力した。
 国費・県費の研修生として日本も訪れ、「米の多様な種類や、果樹の成長のポイントなど知ることができた。妻・家族の協力もありがたかった」という。現在は父親の土地で息子と果樹栽培を行い「『70歳にもなって』と妻に言われます」と笑う。「仕事を懸命にやってきて、そんな価値があったかとも思うが、農家の皆さんから教えてもらったおかげだと思います」と語った。
 松田マリオさん(78、アラサツーバ、父母は大阪、広島出身)は65年にアダマンチーナ総合農業組合(CAMDA)創立に参画、初代理事長として32年間務めた。コスト削減や購買拡大に尽力、組合管理の専門化、カフェから栽培多角化などを進め、8~90年代の経済変動でコチア、南伯などの巨大産組が崩壊していく中で組合の舵取りを担ってきた。
 同組合は現在30支所、1万1600人の組合員を有し、4州で事業を行う。松田さんは経営上のアドバイスを受けた伝田耕平氏ら南米銀行関係者への感謝とともに、受賞後、「困難な時もあったが、組合員に喜んでもらえるようやってきた。評価してもらえ嬉しい」と喜びを語っていた。
 感謝状を受けた孫さんは64年に台湾から移住。桃栽培で知られる吉岡省氏がボツカツ郊外に開いたサンタマリーナ植民地へ入植し、呼び寄せた家族が持参した台湾梅の栽培に成功。それまでブラジルになかった梅干の供給を可能にした。
 日本の植民地時代の台湾で生まれ育った孫さん。日系の団体からの受賞に「思ってもみなかった。日本人でもらう人がいっぱいいますから、意外でした」と語り「もちろん嬉しいです」と喜びを表していた。
 このほか大豆のサビ病を研究、抵抗性品種の育成に貢献した頼則忠志ジョゼさん(69、ロンドリーナ)も受賞した。

授賞式で苦労称える=山本博士の長男 カルロス氏も駆けつけ

 午後7時からの授賞式には、大部一秋在聖総領事夫妻や山本喜誉司氏の息子、坦カルロスさん(85)、東山農場の藤沢マウロ氏など多数の来賓が出席した。
 高橋委員長は受賞者のうち3人がブラジル生まれであることに触れて「1世だけでなく、2、3世も農業の世界で活躍している。これからもブラジルのために尽くしてほしい」とあいさつ。さらに孫さんの梅栽培の功績に「コロニアを挙げて感謝したい」と述べた。
 木多喜八郎文協会長はスポンサーへの感謝とともに、「多くの分野の農業関係者をつなぎ、ブラジル農業の発展に貢献したい」と語った。
 続いて受賞者の功績が読み上げられ、来賓から本人、家族へ記念プレート、花束が手渡された。
 大部総領事は、着任以来各地のイベントで目にした日系農家の生産物のすばらしさ、ブラジル国の高い評価に触れ、「誇りに思える」と述べた。
 受賞者代表の下坂さんは、「家族、先輩、友人など多くの温かい支援と協力の結晶。これからも受賞を心の支え、糧としてそれぞれの道にまい進したい」と話した。
 記念撮影後は同ビル地階サロンで祝賀夕食会が催された。西村武人選考委員の祝辞に続いて、石川準二委員の盛大な発声で乾杯、食事を囲んで歓談のひと時をもった。
 飛行機の都合で遅れていた受賞者の頼則さんも食事の途中で到着し、喜びと感謝を表した。

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