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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年3月19日付け

 むかし、沖縄を訪れたとき―金はないが、時間はあるという旅行だったので、手慰みに三線を買い求めた。ブラジルに来たときにも恥ずかしながら、沖縄県人会の教室に数カ月通った。仕事の都合と練習不足が祟り、足が遠のいたのだが、あの独特の音色を聞くと、心には琉球の風、鼻腔には泡盛の香りが吹き抜ける▼7日にサンパウロ市の沖縄県人会館で「さんしんの日」があった(本紙6面17日付けで詳報)。今回5回目。延べ500人が出演するという大イベントだ。与儀昭雄会長は、「笠戸丸以来、移民が携えてきた。100年経ってこれだけ盛んになるとは」と沖縄の心が音楽を通じて継承されることを喜んだ▼「さんしんの日」の正式な日は、ゴロ合わせで3月4日。2007年に沖縄で登録された。琉球放送のラジオ放送部長だった上原直彦氏が「沖縄の心を一つにすることができないか」と考えていたおり、夏の甲子園で高校球児や観客が終戦の日である8月15日に黙祷することから発想を得たとか。今年、サンパウロでも上原氏からのメッセージが読みあげられた▼時報に合わせ、沖縄はもとより、日本各地、ハワイ、上海でも愛好者が同時刻に「かぎやで風」の演奏を始める。世界各地で三線の音色を同時に響かせ、ウチナーンチュの絆を深めているとは、考えるだけで愉快な話ではないか▼内地(日本)では床の間に刀、沖縄では三線を飾る。戦争の嵐に巻き込まれた沖縄からは戦後、多くの県民がブラジルに移住した。今。沖縄発信のイベントがブラジルで沖縄の文化と伝統を伝える立派な〃武器〃になっていることは、何とも感慨深い。(剛)

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