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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年7月1日付け

 数年前までサンパウロ市最古のサンバチームの一つに通っていた時、「選挙の年にはファベーラの火事が多い。この時だけは市 役所が手厚く対処してくれ、以前より良いところに住めるようになるから」との話を聞いた。黒人系中心のチームで実際にファベーラ住人も多く、〃火を付ける側〃からの証言としての信憑性を感じた。自ら「焼け太り」になろうとするしたたかな発想だ▼この一週間ほどのペルナンブッコ、アラゴアス両州の水害報道を見ていて二つ図りかねたことがある。一つ目は、あれほど国際外交に奔走していたルーラ大統領が、現地を視察するなりG20サミット欠席を発表したことの真意だ▼ペルナンブッコ州は彼の生まれ故郷であるが、それ以上に、北東伯の慎ましい大衆こそが彼の支持基盤だ。それだけに、普段はあまりおおっぴらにこの地域に連邦資金を注ぐと野党やマスコミがうるさいが、今なら反対する勢力はない。しかもW杯開催中で、国民の関心が政治問題に集中しない好機といえる▼二つ目は、洪水の原因に関する報道の曖昧さだ。上流ダムの決壊とするものと、ただの水害とするものに分かれている。ダム決壊ならそれを作り、運営していた政府機関の責任が問われるし、水害なら「自然災害」で政権の問題にはされない。「急に増水した」「津波のようだった」という被災者の声は通常の水害とは異なる印象を与える。今後の報道の成り行きを注視したい▼この水害支援が奏功すれば北東伯票は押さえたも同然といえそう。現在の与党優位の選挙情勢を固定させる好機と考えるような、したたかな政治家や選挙参謀がいてもおかしくない。(深)

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