ホーム | コラム | 樹海 | コラム 樹海

コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年12月7日付け

 サッカーブラジル選手権の優勝を賭けた一戦となった日曜、パカエンブー蹴球場では試合前に、コリンチャンス側客席のほぼ全員が握りこぶしを作った右手を黙って高々と掲げた。1980年前後の名選手ソクラテスが点を入れた時のガッツボースを再現し、その日の朝に亡くなった彼に追悼の意を示したのだ▼父親が文学青年で、古代ギリシアの哲学者プラトンの『国家(対話編)』を読んでいる時に生まれたから、プラトンの師ソクラテスから名をとった。10歳の時、64年、あれほど愛していた本を父が泣く泣く焼いていた姿をみて、軍部がクーデターを起こしたことを知り、その光景が彼の人生に大きな影響を与えたという▼USP医学部に入学するも、サッカー選手になると決意して退学した変り種だ。同クラブ在籍時の80年頃、彼の発案で選手と経営陣が対等に話し合ってクラブ経営する「デモクラシア・コリンチャーナ」を作った▼軍事独裁政権への一種の抵抗運動ともいえる。83年の大統領直接選挙を求める運動では最前線に立って大衆に訴えた。85年に大統領選挙が実施され、88年憲法の制定によって民政移管された。最大級の同クラブ応援団は2300万人を誇る。そのアイドルたるソクラテスが関わることで、それまで一部の活動家中心だった民主化運動が拡大した▼同クラブファンで有名なルーラもそうだ。労働運動に大衆を巻き込み、その勢いで大統領に当選した。同応援団の中心をなす貧困層が中産階級に移行するのが、この10年間の経済発展でもある。ソクラテスの死は民主化の成熟を意味するのか、それとも連続する大臣汚職を見れば〃爛熟〃か。(深)

image_print

こちらの記事もどうぞ