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〝伯流〟は世界に広まるか=ブラジル大衆文化の輸出

新年特集号

ニッケイ新聞 2012年1月1日付け

 日本ではここ数年『韓流』と呼ばれる大衆文化が高い人気を呼んでいる。それはK—Popと呼ばれる流行歌から、TVドラマや映画にも及び、現在は米国進出を視野に入れるに至っている。まるでサムスンやLGといった家電製品の海外進出の成功に文化が続いていくかのようだ。そこから連想し、では『韓流』ならぬ『伯流』、つまり伯国の音楽や映画などの大衆文化が世界に浸透する可能性は果たしてあるのかを検証したい。現在、BRICs諸国の一つとして世界的に経済成長が注目され、サッカーW杯やオリンピックなどの国際的イベントも目白押しの今、文化を輸出するには絶好の機会ではあるのだが、果たしてどうか。

 リオでハリウッド映画=全米興行成績1位記録

 現時点では、伯国側から他国へ向けて文化の輸出を促進する動きはそれほど目立たない。だが伯国が思う以上に他国の関心が高いことを伺わせるのが米国映画界で、伯国に対して興味深い動きを示しはじめている。
 2011年に米国で製作された映画のうち、リオを舞台にしたものが3本あり、それがいずれも全米興行成績で1位を記録した。アニメーションの『Rio』と人気アクション映画『ワイルド・スピード5』、そして年間最大売上を記録した『ブレイキング・ドーン』の3本がそれだ。
 これら作品からは、この先の観光地としてのリオへの期待感が感じられた。特に『Rio』はオリンピックに向けて続編製作を視野に入れているようにも感じられる。
 こうした「映画の舞台としての伯国」という観光的魅力もさることながら、伯国映画界そのものにも期待感が高まっている。ここ十数年で『セントラル・ステーション』(Central do Brasil、1998)、『シティ・オブ・ゴッド』(Cidade de Deus、2002)が世界的にヒットして以来、ワルテル・サーレスやフェルナンド・メイレーレスといった監督が国際的に注目され、アリーセ・ブラガやホドリゴ・サントロのようにハリウッドに進出した役者も出てきている。
 そこに加えて伯国で空前の大ヒットを記録した『Tropa de Elite2』が米国でも権威ある映画賞の優秀外国語映画の5本に選出されるなど高い評価を受けた。伯国内でもここ数年、バギネル・モウラやセルトン・メロといった人気俳優の主演作が興行的に次々と成功しているが、この勢いをなんとか国際的にもつなげたいところ。そのためには国際的ヒット作と新進監督の台頭がもう一つ、二つ欲しいところだ。

 「内向き」志向が強い=音楽業界は脱皮するか

 では音楽はどうだろうか。かつてのサンバやボサノバの世界的成功で伯国は世界的にも音楽の国として知られているが、現在の伯国の音楽家で世界的に成功する可能性を持った者は存在するか。
 現在の伯国は、欧米のスーパースターたちが新規の市場開拓の意味も込めて、これまでに例を見ないほどの公演を行うようになって来た。だが、「輸入」はうまくなったが「輸出」はいまひとつ。むしろ、現在の伯国内での音楽の流行を見てると、「内向き」傾向の方が強くさえある。
 現在の伯国で一番の人気音楽は「ブラジルのカントリー音楽」とも呼ばれるムジカ・セルタネージャだ。本家米国のカントリー音楽がそうであるように、自国情緒を強く盛り込みすぎているために国際市場には非常に向きにくい。近年はルアン・サンタナやパウラ・フェルナンデスといったアイドル性の強い歌手の台頭で若年層にも浸透し、多様化しつつあるセルタネージャであるが、他国の人が感情移入出来るレベルとはまだ言いがたい。
 また「アシェーの女王」ことイヴェッチ・サンガーロだが、ラテン・ダンス音楽の一環として米国に売り込みをはかってはいたが、スペイン語話者が多い同国ではコロンビアやメキシコの歌手の人気が強く、苦戦が否めない。
 外国の伯国音楽ファンの間では依然ボサノバやMPBなどが人気で、伯国内でもマリア・ガドゥなど、その需要に応えられそうな若手歌手も存在しないではないが、音楽的な新鮮味に欠ける上に、世界の伯国音楽ファンの実数自体が少ないため内輪評価で終わってしまう可能性が高い。

 ロックには可能性ある?=期待される意欲的展開

 そんな中、一番可能性があるのがロックだ。ここ十数年、伯国からはへヴィ・メタルのセパルトゥラやダンス・ロックのカンセイ・ジ・セール・セクシー(CSS)などが米国や欧州、日本などでヒットチャート入りするほどの成功を収めている。ただ、この場合、歌われる言語が英語であるために「伯国らしさ」が出るかどうかに疑問が残る。だが近年は伯国内への欧米スターの公演の増加やインターネットで国際的な音楽情報の伝達が早くなったことも手伝い、英語で音楽活動を行う音楽家も増えていることから、新世代が伯国音楽に新潮流をもたらす可能性はある。
 このように分析していくと、「伯流世界進出」のための機が熟したとは現時点ではまだ言いにくい状況ではある。だが、幸いにも現在世界は伯国に対しての関心を高めている。世界進出のための計画性はある程度重要ではあるが、思いきって世界に飛び込んで行って、図らずも高い評価を受ける可能性もある。事実、K—Popが国際的に注目された背景にもネットでの思わぬ反響というものがあった。2016年のリオ五輪までのあいだに伯国文化の意欲的な国際展開を期待したいところだ。

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