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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年2月11日付け

 去る4日に「雪」をテーマにし—「津軽の女性がもんぺ姿で毛布を三角に折ったような物を頭からすっぽりとかぶり吹雪の中を歩む」と綴ったが、あの防寒具の呼び方を思い出せなく、曖昧な言い回しで取り繕ってしまったけれども、やはり悪いことはいけない。先日、北海道で生まれ育った知人のY夫人から「あれは角巻と申します。亡くなった母は雪が降り白銀の世界になると赤く染めた角巻をかぶり、それが真っ白な雪によく映えてとっても綺麗なのが今も胸の奥底に生きています」のメモが届いた▼実は—筆者もあの吹雪をも跳ね返すような角巻で寒さを防ぎながら歩むのを見たことはない。その昔、雪国の暮しを撮影した白黒の写真集で観ただけであり、その説明文に津軽とあったから、あの地方だけの風俗とばかり思い込んでいた。ところが、北海道でも寒さ防ぎのために盛んに使われたそうだし、北陸のご婦人方もせっせと頭からかぶった▼それと、写真集はカラーではなくモノクロなので角巻は黒っぽい。ところが、赤や茶、紺と多彩に染色されていたと知れば、Y夫人ではないが「真っ白な雪によく映える」。どうやら角巻が流行したのは、明治20年代の頃らしく、政府が兵士の防寒用に輸入した赤い地に黒線が入った毛布を払い下げたのを雪国の女性たちが活用したのが始めらしい▼もんぺを穿き角巻をかぶる津軽乙女の写真は、何とも艶やかだし、俗にいう「色っぽさ」がほとばしる。真っ赤な角巻の乙女の姿は、あの厳しい寒さと闘いながら日々を暮らす杣人や女房らが描く見事な風物詩となっているけれども、今はもう消えてなくなったのは何とも惜しく寂しい。(遯)

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