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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年10月24日付け

 「その道のプロとは他の人が大変だと思う事を何事も無いという顔をしてやる人」—その昔、こんな趣旨の言葉を読んだ事がある▼この言葉を思い出したのは、父兄会後の17歳の娘との会話の最中だった。家庭内で起きた出来事のせいで、ポ語の授業で発表しなければならない日に欠席してしまった事を、娘は教師に伝えてなかった。「個人的な理由だと一蹴される可能性もあるから言いたくなかった」と娘は言うが、世の中には、どんな事情があっても逃げ出す事が出来ない状況に置かれる時がある▼入試の日に1分遅れて門を閉められたとか、夏時間が始まった21日に夏時間を採用してない州で、〃ブラジリア時間の午後2時〃という文言を見逃して全国規模の採用試験を受け損なったなどは、個人的な理由が正当化されない例の一つだろう▼一方、個人的な事情や私情をおくびにも出さず、与えられた職務を淡々とこなす人もいる。どんなに体調が悪くても、どんなに大きな問題を抱えていても、一定の出来栄えの作品を仕上げ、一定の業績を上げる▼こういう人は、その仕事をこなすだけの技量を持っているというレベルとは別の意味でプロだ。何があっても、締め切りまでに仕事を終え、一定のレベルの水準を保つ事が出来る人。こういう人は、一般の人には内側にあるブレが読み取れないほどの仕事を毎日積み上げられるだろう。だが、その人に何の痛みも悩みもないとか、他人の痛みや苦しみがわからないとは誰もいえない▼学生時代の恩師は「最高学府に学んだ者は言い訳なぞするな」とも言った。娘との会話に自分はプロかと問い直された一日だった。(み)

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